世界のくらし

パリのくらし “暮らし方多様性”後編

時の経過のなかで溶け込んだファッション・アートといったパリのエッセンスを上手く残し、街のアイデンティティも感じさせるパリの建物活用事例から日本の空間・街づくりを考えてみましょう。

“ソーシャルミックスという考え方”

アートやファッションや食事といった側面だけでなく、他の街と同じようにビジネスやソーシャル活動の拠点もパリには多数存在します。そんな施設の多くにも、パリらしくリノベーションされた空間が活用されています。




小さな入り口の先に、シャンデリアと赤じゅうたんが広がるこの場所は、NPOが運営しているスペース LE COMPTOIR GENERAL(ル・コントワ・ジェネラル)。かつて植民地だったアフリカの国々の文化を伝えていくこの施設は、古いホテルを改修して創られています。アフリカのゲットー文化やアートを収集、保存し、紹介する場に。日々、様々なイベントが開催され、パリでも話題の場所です。施設内は、店舗、Bar、食堂、イベントスペース、美術館、オフィスなどとして利用されています。

パリは長い歴史の中で、移民の多い街でもあります。しかし残念ながら、一部の人々の間では、差別的な考えが根強く残っているのも事実で、社会的な課題です。ここで行われている活動はどれも堅苦しいものではなく、「日常的で、お洒落でラフな、今のアフリカの文化」を知れるもの。「アフリカの伝統的な文化を紹介します。」という気負いはゼロの敷居の低い空間です。社会課題の解決に、アートな空間とポップなアプローチを使うのもパリらしいアプローチ。
 

“問屋街のIT基地「NUMA」”

長年、繊維問屋街として栄えてきたパリ2区のサンティエ地区。30年前までは、色とりどりの衣類で飾られた店舗の上の階で、大勢のお針子さんがドレスや紳士服を仕立てていた空間です。
現在、縫製は人件費の安いアジア諸国で行い、各店のオーナーもほとんどが中国系や中東系。
そこに突如現れたのが、こちらの「NUMA」と呼ばれる施設です。



1階は、誰でも無料でインターネット利用が出来るフリースペース
2階は、有料のコワーキングスペース
3階は、企業や団体とのコラボレーションプロジェクトエリア
4階は、起業家や起業したい人の基地

NUMAは、コワーキングスペース、起業支援の複合施設として活用されています。何故、この場所にこの様な施設が出来たのでしょうか?
現在、この施設の運営母体で起業家支援を行う団体Silicon Sentier(シリコン・サンティエ)が活動を始める10年程前、パリではインターネット回線が非常に不安定でした。その中で唯一、パリ証券取引所に近いこの界隈は充実したインターネット網が敷かれていた事、また、パリの中心部というロケーションの割に賃借料が安かったという理由から、自ずと起業を目指す人々が集まってきました。
誰かが呼びかけた訳ではなく、それぞれが自分達が必要とするものを追いかけてきたら、自然と同じ志の人が集まって来て、新しいコミュニティが発生して、相乗効果で、もっと良い物を創りだすエネルギーが生まれる。
日本でも、シェアハウスやコワーキングを通じて、コミュニティ作りが行われていますが、このNUMAは、必然的、自然発生的に生まれたという点で非常に興味深いコミュニティの事例といえるでしょう。





“観光大国のリノベーションホテル”

世界最大の観光地、パリには、由緒正しきホテルも沢山!!宿泊場所は、選取りみどり。高級ホテルもたくさんある中で、リノベーションホテルも人気を博しています。
 
『Hotel MOLITOR Paris(モリトー)』
モダンな社交の場としての市民プール→閉鎖後、グラフィティーアートだらけの廃墟→温水プール&サロン付きの宿泊施設へとの数奇な運命をたどってきたホテル。現在は1泊30,000円以上する5つ星ホテルとして運営されています。



建物の中には、水着姿の女性のポートレートが飾られていたり、はたまた奇抜なグラフィティーアートに埋め尽くされた空間があったりと、この場所のたどってきた歴史を、さりげなく示唆していて、良い事も悪い事もこの建物の歩んできたストーリーの一部として内包して継承する事で、この建物の価値を一層、高い物にしています。



高級ホテルでプールがついています、というのは良くある話。しかし「プールがあったので、ホテルにしてしまいました。」という逆転の発想が新しい価値を生み出しています。



『ユースホステル:オール・パジョル』
遠くからでも目を引く、大きな屋根!こちらは、パリ北東部18区にある複合施設オール・パジョルです。
フランスの国鉄の持っていた倉庫をリノベーションし、図書館やユースホステル、オフィスやカフェなどの店舗が入る複合施設が誕生しました。



大きな屋根には、太陽光パネルがぎっしり覆いかぶさっています。敷地面積8,000㎡の43%にあたる3,500㎡の太陽パネルを使用しており、エネルギー自立型の施設となっています。



既存の屋根は残したまま、建物の向こう側、ほぼ半分の空間を吹き抜けにした庭園空間。ほとんど骨組みしか残っていないけれども、屋根の形が残っている事で、「ここ全てが大きな倉庫だったのだよ。」という作り手のメッセージを感じることができます。庭園からは、ベンチに腰掛けながら、フェンスの向こう側を走る十数本の線路、音をたてて走り抜ける電車を眺めることも可能。パリの中心部をはずれてしまうので、観光には少し移動が必要ですが、その分、街中の窮屈さやせわしなさから切り離されて、リラックスして滞在できる場所です。

このように、パリではビジネスの場や、宿泊施設にも古い建物をリノベーションした施設が利用されています。ファッション・アートといったパリのエッセンスが随所に垣間見える“らしい”空間づくりが、この街のアイデンティティ。日本のまちづくり、施設づくりにも参考にしたい優れた考え方です。


 
取材・撮影:2015年