つくるくらし

第5回 これからの本屋めぐり「Tbooks下北沢」

ブック・コーディネーター内沼晋太郎さんが主宰するBUKATSUDOの人気講座「これからの本屋講座」受講生の手がける、全国のユニークな本屋をめぐります
第5回は、平日はタロットセッション、休日は本屋として営業する「Tbooks下北沢」を訪れました。


「Tbooks下北沢」は、下北沢一番街商店街沿いの小さなマンションの3Fにある、“大人の女性のための秘密の隠れ家”。平日はタロットリーダーでもある店主が予約制でセッションを行い、土日は自由に出入りできる本屋、というスタイルで営業しています。惜しくも2019年10月に店舗は閉店してしまいますが、店主の高橋りかさんに、お店を始めたきっかけから、「全く悲観的ではないんです」という閉店の理由まで、個人で店を始めたい人の後押しになるお話を伺ってきました。


「まさかね……」と思いながら調べていたらいい物件がみつかった

内沼さん 2019年10月末でお店を閉められるということで、今日はオープンからいままでのことを伺いたいと思います。最初は僕が講師をしている「これからの本屋講座」に来ていただいたのがきっかけだと思うのですが、どうして講座に?

高橋さん もともと「働き方」について興味があって、関連するテーマの本を読んでいたんです。その中で内沼さんの『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)がとてもおもしろくて、内沼さんのお話を聞いてみたいと思って。

内沼さん 僕が最初に出した本ですね。懐かしい。

高橋さん それで内沼さんのことを調べたら、講演会じゃなくて講座があったので、それがいいと思って参加しました。



内沼さん じゃあ最初は本屋を始めるためじゃなかった?

高橋さん ぜんぜん思っていなかったです。コミュニティスペースのような場所はいずれ作りたかったんですが、お店は全く……。

内沼さん Tbooks下北沢は平日は予約制のタロットセッション、土日は本屋という営業スタイルですが、タロットのお仕事はその前からやっていたんですか。

高橋さん タロットは幼い頃からやっていました。ただ、本業にするつもりだったわけではなく当時も個人セッションはしていましたが、大々的に募集はしていなかったですね。



内沼さん そんな中で、どうして占いと本のお店を?

高橋さん 講座がきっかけでやる気になりました。やりたいと思ったらすぐやっちゃうほうなんですね(笑)。講座は序盤から参加者が本屋アイデアをプレゼンする形でやり取りも面白くて、その中で私の「占いと本屋」というコンセプトのウケが良かったんです。そのときはまだ現実的ではなかったんですが、「まさかね……」と思いながら物件も調べていて。

内沼さん この物件が見つかったのも講座中でしたね。

高橋さん はい。場所も良く家賃も安い物件がみつかっちゃって(笑)。これはタイミングだよなと思って、講座最終回の前日に内見して、もう提出済みだった発表資料を作り直して差し替えてもらって、翌日の講座で発表しました。

内沼さん 
ぼくも同じ下北沢で本屋(B&B)をやっているじゃないですか。だからその場で、下北沢でこの立地でこの家賃はまず出ないからすぐ電話したほうがいい、って言って(笑)。

高橋さん それで早く抑えたほうがいいなと思って、たしかその講座の休憩中に電話して決めました。講座に通う中で、お店を始めるリスクもわかりましたし、これから自分の生活をどうしたいかも考えたときに、やっていけそうだなと。

開店準備の様子。内装はDIYで有志のメンバーと作った(写真提供 Tbooks下北沢)


お店のオープンを経験できたことが自信につながった

内沼さん 他のお仕事もされながらお店も開けているという生活スタイルですよね。兼業はどうやっているんですか。

高橋さん 在宅でもできる仕事なので、普段は家で仕事をして、タロットセッションの予約があるときに店に来ます。土日は店番をしながら仕事をすることもあります。いまの仕事をしているから、この店もできたところもありますね。

内沼さん 店を始める前から、時間と場所が自由な仕事をされていたんですか。

高橋さん はい。もともとなにかやりたいとは思っていたので、3~4年前に自由に時間が使える仕事に変えました。



内沼さん 約2年間お店をやってみてどうでした?

高橋さん お店のオープンを経験できたことは大きかったですね。店を閉めると言うと、気の毒そうな感じで「閉めるんですか……」って言われるんですよ。でも全く悲観的ではないんです。

内沼さん いま閉店するのは、物件の更新だから?

高橋さん はい、直接のきっかけはそれです。あと、長年飼っていた猫が亡くなったのが大きくて、死に直面して、いましかできないことがある、タイミングがある、と思ったんです。この店は以前から活動を共にしていた仲間とアイデアを実験するスペースでもあったんですが、子どもができたり海外に行ったりと、みんな忙しくなって活動しづらくなってきましたし、お客さんも、私と同年代の女性をメインに想定していたんですが、友達と一緒でみなさん忙しい年代になってきている。だからといって、下北沢の学生とかにターゲットを変えて、タロットセッションもガンガン入れて商売っ気を出して店を続ける、という考えにもならなかったんです。
店の運営に必要な経費をいま払い続けるよりも大事にとっておいて、いつかまた友人たちと活動できる状態になったときに、つまり、このお店に来てほしいと思っていた人たちが自由に時間を使える年代になったときに、また始めたほうが楽しいんじゃないかなと。そういうなかで、「やれることはやったかな、ここがタイミングかな」と思いました。

内沼さん 好きなことを好きなペースで続けたいなら、店や友達やお客さんにとっても、他にいい時期があるんじゃないか、ということですね。

高橋さん 一度お店のオープンを経験したので、またすぐ再開できるという自信がついたんです。始める準備もすごく楽しかったんですよ。私はお店を作るのが好きなんだと気づきました。

内沼さん 
日本だと珍しいと思いますが、一度やってみて経験を積んで軽やかに辞められる、というのはいいですね。僕は韓国、台湾の本屋も取材しているんですが、あちらはそういう人が多いし、みんな楽しそうでした。今後の活動はどうされる予定ですか。

高橋さん 
Tbooksとしては、同じ下北沢にある「BOOK SHOP TRAVELLER」に本を置かせてもらって、ときどき店番もして、タロットでお客様にオススメの一冊の本を選ぶ「タロット選書」も引き続きやりたいなと思っています。タロットセッションは予約制で続けるつもりです。



せっかくならこの空間を引き継いでほしい

内沼さん 居抜きで物件の借り主を募集していますよね。そういうやり方は珍しいと思うのですが、どうして?

高橋さん そうなんですよ~。せっかく色んな方々と一緒に時間をかけて作った空間なので、できたらこのまま使ってほしいんです。この家賃で商業利用もできる場所は貴重だと思いますし。

内沼さん 棚も置いていってもらえるなら、本屋や、雑貨店とかもすぐできるわけですものね。いいオーナーが見つかるといいですね。今日はありがとうございました。



(店舗情報)
店名: Tbooks下北沢
住所: 155-0031 東京都世田谷区北沢3-30-3 北沢T.Tビル3F
営業時間:月-金タロットリーディング(予約制) 土・日 11:00~18:00(オープンデー)
http://tbooks-shimokita.com/
*現店舗は2019年10月末で閉店


 
取材・撮影2019年10月
writing &
photograph:松井祐輔