つくるくらし

東京と逗子を行き来するデュアルワークで見つけたもの | my dot. life

住まいを選ぶとき、「3人家族なら2LDK、4人家族なら3LDK」など、広さの“相場”はどうしても気になってしまうもの。けれど暮らしで大切なものは人それぞれで、住まいにはもっといろいろな形があるはずです。
リビタが提案する「my dot. life」は、「便利な都心で街を活用しながらコンパクトに暮らす」+「余った資金で地方にもう一つ拠点を持つ」、そんな新しい住まい方の発想。当たり前と思われたことを軽やかに飛び越え、実践している人たちはなぜその暮らしを選び、何を感じているのでしょうか。

今回お話を聞いたのは、東京で仕事をしながら、逗子で土曜日だけオープンするコーヒーの店「アンドサタデー 珈琲と編集と」を営む庄司賢吾さん・真帆さん夫妻。賢吾さんは編集/デザイン/写真の仕事、真帆さんは飲食店やイベント運営の仕事に携わり、平日は東京の職場に通い、週末を中心に逗子でお店を営むデュアルワークを実践しています。
 
二つの街を行き来しながら二つの仕事を持つ暮らしは、どのように始まり、続いてきたのでしょうか。


■この街なら「自分たちの場所」を作る夢を叶えられる
  

 
以前は都内の同じ企業に勤務し、学習教材などの企画編集に携わっていた二人。当時は通勤のアクセスがいい都内に暮らし、職住近接を実践していました。
 
転機が訪れたのは3年ほど前。転職で以前より自由な働き方ができる職場に移った二人は、「暮らしをもっと大切にしたい」と引っ越しを考えるようになりました。暮らしたい街として思い浮かんだのは、真帆さんの出身地にほど近い逗子の街。
 
「山も海もあって、ゆったりしていて。知り合いがいたわけではないけれど、単純に好きだなと感じられる街でした。お店もコンパクトに集まっていて暮らしやすいし、職場までは逗子駅始発の電車に座って1時間半程度。都内に住んでも通勤に1時間ぐらいかかることはよくあるし、少し時間を足すだけで自然のそばにある暮らしを選べるのは、すごくいいなと思いました。
逗子には私たちと同じように東京に通っている人が多くて、『逗子都民』という言葉もあるくらい。移住というほど思い切ったわけではなく、引っ越しという感覚でした」(真帆さん)
 


平日は東京に通い、週末は逗子でゆっくり過ごす。そんな暮らしで気づいたのが、逗子には気軽にコーヒーを飲める店がほとんどないということ。週末にコーヒーを飲む時間が好きだった夫妻は、「コーヒーの店を始めたい」と考えるようになりました。突然思いついたわけではなく、かねてから「自分たちの場所を持ちたい」という思いがあったといいます。
 
「人が集まれて、その街の暮らしが楽しくなる発信もできる場を作りたいと思っていました。ただ仕事を辞めて専念することは考えていなかったので、東京で高い家賃の店舗を借りて始めるのは現実的ではなかったんです。逗子なら、珈琲屋さんも街のメディアもまだ少なくて、小さな場所から自分たちの活動を始められそうだと思いました」(賢吾さん)
 
「東京に住んでいた頃、近所の手紙舎というカフェによく行っていて。お店を運営しながら雑誌やイベントを通じて自分たちの好きなものを表現する手紙舎の活動を見て、『こういうことがやりたい』と思ったのが最初です。前職では紙媒体やWEBの編集をしてきましたが、リアルな“場の編集”をしてみたかった。今の会社に転職したのも、店舗運営を通して場づくりの経験を積みたいと考えたからなんです」(真帆さん)
 


平日は会社があるため、お店の営業は週末だけ。コストを考えると、どこかの店舗を間借りすることが現実的でした。そこで、街のたばこ店で「ここでコーヒーを出させてもらえませんか」と声をかけたり個人商店に間借りを相談したりと、地道に街を歩きながら場所探しを始めます。
 
そんなとき「昼間なら空いているから、うちでやってみる?」と声をかけてくれたのが、駅からの帰り道に時々立ち寄っていたバーのオーナーでした。こうして、土曜日だけのコーヒー店「アンドサタデー 珈琲と編集と」がオープン。引っ越してわずか4カ月後のことでした。



「営業を土曜だけにしたのは、私たちにとって一週間で一番リラックスできる時間をみんなと共有したいと思ったから。日曜は私たちも休もう、と(笑)」(真帆さん)
 
「最初は特別な準備をしたわけではなく、手持ちのコーヒー道具をキャリーケースに詰めて持ち込んでいました。今まで二人でコーヒーを飲んでいた時間を、街に開放するような感覚です。最初から無理をせず、最小限の初期投資とランニングコストで始められたのも長く続けられている理由だと思います」(賢吾さん)
 

■「この街、いいよね」の共通の感覚が、人と人とをつなげていく
 
緩やかに、暮らしの一部として始めたお店。リラックスしたその空気に誘われて訪れるお客さんには、夫妻と同じように逗子に移り住んだ同世代の人も多かったといいます。
 
「お店を始めた理由の一つが、この街でおもしろい人に出会える空間を作りたかったから。すると同じことを感じていた人がどんどん店に集まって、ここを媒介につながって。ここで出会って、一緒に仕事を始めた人もいます。近くに住むおじいさんも毎週来てくれて、コーヒーを飲みながら昔この辺りがどんな街だったか話してくれたり。
 
『この街、いいよね』という共通の感覚がみんなにあるから、お客さん同士が意気投合するなと感じます。この店をきっかけに、逗子に移り住むことを決めた人もいるんですよ。長くメディアの編集をしていましたが、やっぱりリアルな場の持つ力はすごいなと感じました」(真帆さん)
 
人が集まるきっかけとなっているのが、編集の感覚を生かして企画しているユニークなイベントです。食やお酒をテーマにしたものが多く、登場するゲストはミュージシャンからお菓子屋さん、バナナジュース屋さん、発酵をテーマに活動するアーティストなどバラエティー豊か。その多くが、庄司さん夫妻の東京の友人です。




 
「東京の友人はこの場所をおもしろがって遊びに来てくれるし、地元の人も逗子にいながらいろいろな人に会えることを楽しんでくれる。逗子と東京の距離だからできることですよね。こうしたいい相乗効果もあるから、東京の仕事を辞めようとは思いませんでした」(真帆さん)
 

 
雑誌の表紙のようにデザインしたイベント告知は、今やアンドサタデーの名物。「これまでのイベントの写真を、いつか冊子にまとめたい」と二人は語ります。



オープンから1年ほどたった頃、バーのオーナーが店を閉じるのを機に店舗を丸ごと借り受けることに。土曜日以外も少しずつ稼働を始め、「ここで何かを始めてみたい」という人に1日限定で場所を提供する「日曜商店」もスタートしました。
 

■働き方は、動きながら変えていけばいい
 
形としては副業ですが、二人にとってこの場所は、仕事とはまた違った存在のよう。その感覚を尋ねると、「投資に近いですね」と意外な答えが返ってきました。
 
「たとえば毎月1万円ぐらいかけてジムやヨガに通う、それに近い感覚です。そのお金をこの場所に充てて、やりたい活動をする。自己投資というと大げさですが、何かにつなげられたらという思いはあります。ジムで鍛える感覚にも近いかもしれません(笑)」(真帆さん)
 
「この場所自体が自分たちのポートフォリオ代わりになって、来てくれた人が店内に飾った彼女のイラストや僕の写真を見て仕事を依頼してくれることもあるんです。彼女の接客の雰囲気を見て人と関わる仕事が増えたりと新しい仕事への波及も生まれて、すごくいい投資になっています」(賢吾さん)



仕事にイベント、街との関わり。たった2年で生まれた大きな変化は、二人にとっても想像以上。「自分たちのできることが広がっていくのがうれしいです」と話してくれました。
 
「最初は平日の仕事とバランスをとって続けていましたが、だんだんアンドサタデーにもっと時間やエネルギーを注ぎたくなって、会社に相談して今年から週2日の業務委託に切り替えました。東京で過ごす日は予定をぎゅっと詰め込んで、密度の高い時間を過ごしています。
 
デュアルワークという言葉を耳にする機会は増えましたが、方法は一つではなく、自分に合ったやり方を見つけることが大切だと思います。私も1年前は、こんな風になると想像もしなかった。もしかしたらこちらに100%専念しようと思う時が来るかもしれないけれど、それはまだ分からないですね」(真帆さん)
 



新しいことを始めるのは、誰しも勇気がいるもの。まずは小さな規模で始めて、続けながらやり方を変えたり、時には誰かの力を借りたりしながら続けることが大切なのだと感じます。
 
「無理すると続かない。背伸びせず自然体で居られるのが一番だと思います」(賢吾さん)
 
「私たちは、誰でもできる小さな選択を重ねてきただけなのだと思います。違うのは、それを実際に選んで、続けたこと。気軽に副業を始める入り口は増えていると思いますが、続けることで見えてくるものもあると思います」(真帆さん)
 
デュアルワークというと特別に聞こえるかもしれませんが、まずは自分のできる範囲で、一歩踏み出してみること。そこから見えてくるものや新しい出会いが、次の世界を見せてくれるのかもしれません。
 

【プロフィール】
「アンドサタデー 珈琲と編集と」
庄司賢吾さん
庄司真帆さん
 
教育系の出版社で出会い、結婚後に東京から逗子へ引っ越し。2017年、土曜日だけ開くカフェ「アンドサタデー 珈琲と編集と」を逗子駅近くにオープン。現在、賢吾さんは都内の企業でWEB制作に携わりつつフリーランスで編集やデザイン、撮影を行い、真帆さんは飲食店やイベントの運営を行う企業で働く。平日はそれぞれ都内の職場に通い、週末を中心にお店を切り盛りする日々。現在は他の曜日も不定期で営業するほか、地域のイベントにも参加。逗子市内の二世帯住宅を友人家族とシェアして暮らし、逗子で暮らしてみたいという友人に「お試し暮らし」として泊まってもらうことも多いそう。
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文:石井妙子/撮影:古末拓也
取材・撮影:2019年7月