リノベーション
ストーリー

リノベーションストーリー まちとくらしの再構築 "KUMU 金沢篇"

様々な土地を旅して回るフォトジャーナリストが、
「リノベーションによる再生」に注目し、そうした土地を訪問し、滞在して綴るフォトエッセイ

ビジネススーツで身を固めた人、買い物を小脇に抱えた地元の女性、そしてスーツケースを引く外国人のグループ。広々とした1Fのティーサロン「KISSA & Co.」から実に多様な人々が行き交う外の様子を飽きることなく眺めている。目の前を走る「百万石通り」は、金沢の中心街をひと回りする目抜き通り。その中でも武蔵ヶ辻と香林坊というふたつの繁華街をつなぎ、金融機関やオフィス、商業施設等が集積する金沢の大動脈に「KUMU 金沢」は立地している。地元の人によれば、このあたりは「金沢駅と香林坊の中間くらいにあって、どちらにもアクセスしやすい便利なロケーション」。ホテルの目と鼻の先には金沢の象徴のひとつ尾山神社があり、境内から金沢城公園方面へ抜けることができる。その先には兼六園や金沢21世紀美術館が控えていて、観光客にとっても非常に便利なロケーションだ。そうした立地の良さに注目が集まり、複数の新たなホテルが、今後このエリアで相次いで開業する予定という。



ティーサロンで隣り合わせた二人組の婦人が、昔話に花を咲かせている。どうやら女性の家族が、かつてこのビルで働いていたらしい。興味をそそられ話かけてみると、当時の話をあれこれと聞かせてくれた。このビルはかつて繊維関係の商社が使用していたという。「こうして気軽にお茶を楽しめる空間に生まれ変わったことが、とても嬉しくて」と付け加えてくれた。彼女たちの奥には、ラップトップを開いたビジネスマンの男女が仕事の打ち合わせを入念に行っている。築45年のオフィスビルが当時の面影を所々に残しつつ、新たにホテルとしてコンバージョンされる。地元の人々はこうした新たな動きを歓迎し、お茶をしたり、コワーキングスペースのように使ったりと、様々な形で「KUMU 金沢」のコンテンポラリーな空間を利用しているようだ。

 

「金沢の伝統を汲む場所」というコンセプトを持つ「KUMU 金沢」は、「北陸ツーリズムの発地」をコンセプトとした「HATCHi 金沢」に続く、「THE SHARE HOTELS」の金沢2号店にあたる。ドミトリー主体の「HATCHi 金沢」に対し「KUMU 金沢」は個室のみ。オフィスビルの歴史が刻まれたコンクリートの表情を積極的に活かした客室に木組みのインテリアが新たに施され、畳スペースが設けられた客室からは金沢で発展した茶室の美学が感じ取れる。




また各階の共用部分や一部客室に設置された、北陸の伝統文化を汲み取ったアートや工芸。館内2箇所に設けられ、お茶やコーヒーが気軽に楽しめるティーテーブル。


 

そして1Fのティーサロン「KISSA & Co.」で提供される抹茶や加賀棒茶と上質な生菓子。「KUMU 金沢」に滞在するということは、現代へとアップデートされた、武家文化や茶の湯などの「加賀百万石」の伝統、つまり金沢に息づく様々な美学と触れ合うことを意味するのだ。


 

その日の夕方、1Fのシェアスペースではとあるトークイベントが行われていた。ZEN(禅)をはじめ、日本・東洋の文化を世界に伝えたことで知られる鈴木大拙を、「鈴木大拙館」の学芸員である猪谷聡さんが紐解く「身近に感じる鈴木大拙」というもの。「地元民のほうが案外、土地のことを知らなかったりする」という参加者の声を裏付けるように、集まった人々のほとんどはローカルの人々。金沢が生んだ世界的な仏教哲学者の半生やマニアックなエピソードを、ビールを抹茶で割ったという「抹茶ビール」を片手に、ゆったりとディスカッションを重ねていく。



翌日、ホテルのレンタサイクルを借りて街に出た。香林坊から「北陸No.1のファッションストリート」タテマチ(竪町商店街)、そして昭和にタイムスリップしたかのような新竪町商店街を駆け抜ける。ふと、昨夜のイベントが脳裏に浮かび、「鈴木大拙館」に立ち寄ることにした。



故人の生誕地近くに建てられた記念館は、金沢ゆかりの世界的な建築家・谷口吉生によるもの。素晴らしい回廊のレイアウトは、鈴木大拙が説いた「全宇宙」を体現するような完成度だった。やがて「思索空間」に腰を下ろし「水鏡の庭」を眺めていると、心は瞑想状態に。禅の世界観を表現した空間で心の贅沢を得るまでの邂逅を思い起こしながら、ローカルと旅人が交わり新しい何かが生まれる「KUMU 金沢」という舞台で巡り合った旅の幸運を、改めて噛みしめた。
取材・撮影:2017年