お金とくらし

クリエイター夫妻が恵比寿と湘南で二拠点生活をする理由 チダコウイチさん・野口アヤさん

「こだわりあふれる心地いい住まい」という誰もが抱く願いを、憧れの二拠点生活で実現しているチダさん&野口さん夫妻。単なる週末だけの田舎暮らしとは違い、都内と湘南に持つ家の両方が仕事や活動の拠点であり、リラックスできる空間でもあるといいます。「古いものが好き」という夫妻は、これまで代官山、湘南、恵比寿に中古住宅を購入し、相当な時間と労力と資金をかけてリノベーションをしてきました。仕事で多忙な夫妻が住まいにこだわり、時間とお金を費やしてきたのはなぜなのでしょうか——。そこには、20年以上クリエイティブの第一線でご活躍されている夫妻ならではの理由がありました。
 
【プロフィール】
チダ コウイチ(ちだ・こういち)
クリエイティブディレクター。株式会社シソン代表取締役。これまで25年以上に渡り、30以上ものブランドのディレクション、立ち上げ、リブランディングに携わる。現在はアイウエアブランド「ゾフ」のゼネラル・クリエイティブ・ディレクターを務める。

野口 アヤ(のぐち・あや)
「シソンギャラリー」オーナー/ディレクター。ウィメンズブランド「サロン ド バルコニー」などをはじめ、20年余ファッションデザイナーとして活躍。現在はギャラリーディレクターを中心に、ファッションだけでない様々な形でクリエイションやライフスタイル等を提案。


フランス製のタイルが張られたリビングスペース。フロス社のアルコランプとオランダの家具ブランド・モンティスのレザーソファが鎮座する。

■「古いものが好き」から始まったリノベーションという選択
 
―現在お住まいの恵比寿の集合住宅と湘南の戸建て、また代官山に構える戸建てのギャラリー。そのどれもが新築ではなくリノベーションですよね?
 
チダさん:価値のある古い建物が好きだというのが前提にあります。結婚する前の一人暮らしの時から、ヴィンテージの集合住宅にばかり住んでいました。それらはすべて賃貸でしたが、16年ほど前に初めて購入した家が今の代官山のギャラリーです。
 
100年ほど前に建てられた日本家屋で、すごく素敵でしたので購入を決めました。はじめはリノベーションして住むことも考えましたが、立地や広さ、その時の仕事の状況などを考えて、当時妻がやっていたブランドのショップにしたんです。
 
―代官山で戸建て、さらにリノベーションとなると予算も大変だったのでは?
 
チダさん:想定していたよりも改装費がかさみ、それだけで4,000万円くらいかかりました。
 
野口さん:建物自体がすごく良かったので、それを残すことを考えると仕方がなかった面もありますが、私たちにとっては初めての住宅購入とリノベーションだったので、今思えばもう少し上手にやれたのでは、という思いもありますね。



―次に購入されたのが湘南の戸建てですか?
 
チダさん:そうですね。代官山の戸建てを購入した翌年に買いました。当時は都内に住まいがあったので、夏だけ過ごすサマーハウスのような使い方をしていました。でも、やっぱりちゃんと住みたいよねって話になり、購入してから1年後くらいにリノベーションしました。
 
野口さん:本当にボロボロでしたので、外観と一部の間取りを残した程度で、フルリノベーションでしたね。壁もすべて替えたので、この家も改装費だけで3,000万円後半くらいかかりました。
 
■思い入れがあった家と再び巡り会い購入を即決
 
―こちらの恵比寿の集合住宅には特に思い入れがあるとか。
 
チダさん:実は19年前、この5世帯しかない集合住宅に住んでいたんです。ちょうどその頃は新しくアパレルの会社を立ち上げたばかりで、事務所兼自宅として使っていたこともあり、大量の洋服の段ボールで埋め尽くされてしまったこともあって、止むを得ず1年半で退去することになりました。でも、その後どの家に住んでいても、頭の片隅にはずっとこの家のことがありましたね。


ダイニングルームとリビングを仕切るサイドボードには埋め込みの冷暖房システムが。こちらも建築当時のデザインだとか。

野口さん:本当にすごく好きだったんです。だからまた3年前に巡り会えたときは嬉しかったですね。空き物件が出たことを知り、内見してすぐに購入を決めました。この集合住宅を建築した吉村順三さんのデザインが、私たちの好きなもの、持っている家具にしっくりなじむんです。
 
チダさん:家がデザインされているんです。建物はデザインされているけど住みにくい、みたいな建築家の建物って意外と多いと思うのですが、吉村さんの家は違いますね。暮らす人のことを考えた上でデザインされています。
 
―その思いもあり、「建築当時の姿に戻す」というリノベーションだったわけですね。
 
チダさん:前に住まれていた方がご高齢だったこともあり、バリアフリー住宅のような仕様に変わっていたので、吉村順三さんのデザインに戻すというレストア(※元の状態に戻すこと)に近い改装をしました。ただ単に古い集合住宅とは違い、いいヴィンテージの集合住宅はこれから先も残ると思いますし、残していきたいとも思っているんです。


ヴィンテージの家具で統一されたベッドルーム。直接照明がないフラットな天井と真っ白な空間は吉村順三建築の特徴の一つ。

―ヴィンテージの集合住宅ゆえのリノベーションの注意点などはありますか?
 
チダさん:ヴィンテージの集合住宅に限ったことではありませんが、やっぱり古い建物は水回りが大事だと思います。配管の状態なども調べるのがベストですね。ここに関して言えばデザインが完璧なので、水回りと冷暖房のシステムさえ新しくすれば、後は元に戻すだけで価値があると思っています。
 
野口さん:実際に直したのも水回りと冷暖房システム、あと壁を塗り直したくらいです。代官山も湘南もリノベーションにお金と時間と労力がすごくかかりましたが、今回はお金の面でも前の2軒に比べて大幅にコストダウンしています。
 
 ■家にお金をかけてきたことが今の暮らしにつながっている

―心地いい暮らしを実現するために、これまでどのようなお金の使い方をされてきましたか?
 
チダさん:こう見えて実は二人とも堅実家なんです。お金に余裕があった時でも、あまり贅沢をしてこなかったですし。強いて言えば、家にはお金をかけてきたかもしれません。まだ独り暮らしで賃貸のときも、当時の収入からは背伸びした家には住んでいました。ただ結果として、それが今の生活にも繋がっているのだと思います。


水回りのリノベーションの一つであるキッチンスペース。バス・トイレ同様にシンクは最新設備に。建築当時のグリーンに塗り直したという。

―家にお金をかけてきたことが、今のお二人のライフスタイルを形成しているということですね。
 
チダさん:僕たちがアパレルを始めた25年くらい前は、見せかけのファッションをしている人ばかりだったんです。着飾っていても、家はしょぼくてライフスタイルまでは見えてこない。でも欧米では、一見普通のサラリーマンでも家にこだわりを持っていて、家での生活スタイルも素敵だったんです。
 
この20年くらいで日本人でも家にこだわる人は増えてきたとは思いますが、当時僕たちはデザイナーであれば、家やインテリアもリンクさせなくてはならないと思っていました。素敵なデザインを提案する仕事であれば、自分たちのライフスタイルもそうでなければならないと思ったんです。それが家にお金をかけてきた理由になるのかなと。


バスとトイレは最新の設備に交換。既存のユニットバスでは気に入ったものがなく、タイルひとつひとつから選んだオーダーメイド。

野口さん:最初は住むかどうか分からなかった湘南の家も、お金をかけてリノベーションしたことで、今の二拠点生活が実現しているわけですからね。この家も湘南の戸建ても、リラックスできる空間としても、仕事でクリエイトする場所としても最高です。
 
■時代や生き方の変化に合わせて家も自分もアップデート
 
―その二拠点生活について、もう少し具体的に教えて下さい。
 
野口さん:基本的にはオフの週末を湘南で暮らしています。二人とも海や山のアクティブなことも好きなので、湘南での生活はそれらを楽しむリフレッシュの時間ですね。あとは旅行も好きなので、プチ旅行の感じもあります。
 
チダさん:でも、最近は少し変わってきていて、湘南で仕事をすることも増えてきました。昔と違い、今はPCがあれば仕事ができますし、極端なことを言えばスマホがあればどこにいても仕事ができちゃいますから。だから先ほど妻が言った通り、恵比寿の集合住宅と湘南の戸建てのどちらもが、仕事場であり、リラックスできる場にもなってきているんだと思います。




―リノベーションと二拠点生活によって、理想の住まいを手に入れたわけですね?

チダさん:はい、現時点では。僕らはモノが好きな世代で、実際にヴィンテージの服やキリム(※中近東で暮らした遊牧民たちが織る平織りの織物)を集めたり、古いクルマを所有したりしていたんですが、今はモノをシェイプする時代に変わってきていますよね。若い世代は家だってシェアしていますから。
 
僕も、昨年50歳を迎えたときに、クルマも1台にして身の回りをシェイプし始めたんです。新しい仕事もはじめて、もう一度ゼロからチャレンジしよう、常に新しいことに挑戦しようと決めました。20年後、30年後もずっと仕事も続けていこうと。
 
だから今は最高の住まいですけど、70歳になった時にはまったく違う家に住んでいるかもしれません。その頃は、どこにいても仕事ができる環境になっているかもしれないですし。ライフスタイルや暮らし方、そして家は、時代と自分たちの環境に合わせて、これから先もアップデートし続けようと思っています。
 


■SISON GALLERy
ご夫婦が最初に購入した、昭和7年に建築された代官山の日本家屋は、今は野口さんがディレクションを務めるギャラリーに。アートエキシビションやクラフト、ワークショップ、展示会など様々なクリエイションを展開している。
http://sison.tokyo/


写真=SISON GALLERY

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https://www.rebita.co.jp/renosapo/
 
取材・撮影:2018年10月
writing:大内康行(エディター、ライター)/ photograph:森口新太郎