ローカルのくらし

風・ひと・酒~真鶴編~訪れたら最後、居ついてしまう「くせになる」街 【前編】

―近い将来、湘南で暮らしたい ―
滞在だけでは知りえなかった湘南の魅力をお届け。
BUKATSUDOの人気講座「近い将来、湘南で暮らしたい学」でモデレーターをつとめる
ミネシンゴさんによる連載コラムです。


小田原と湯河原・熱海という観光都市に挟まれた港町、真鶴。川上弘美による小説のタイトルにもなっているこの街に、近年移住する人が増えてきています。静かな港町が人を惹きつける理由とは? 移住者のひとりであり、現在ゲストハウスと出版社を営む「真鶴出版」川口瞬さんに、真鶴の魅力を案内してもらいました。
 
 


街のみんなが待っていた、誰もが集えるお店真鶴ピザ食堂 ケニー
                                                       
まず訪れたのは、「真鶴ピザ食堂ケニー」。駅から左手の道をまっすぐに4、5分おりていくと、すぐに到着。カフェのようなカジュアルな外観と、一歩入れば友人宅に遊びに来たような心地いい空間が迎えてくれます。歩いて2分とかからないところに位置する真鶴出版とはご近所さんで、「多ければ週に4回は食べにきます」と、川口さん。
お店には地元の若者から近くの別荘地の住人、また90代の方まで、幅広い客層の人が訪れます。
 
川口:「ふつう、移住者が始めるお店は移住者が集まるお店になりやすいんですが、地元のお兄ちゃんたちもケニーで食べていたりするんです」



 
提供されるピザは、地元食材を生かしたメニューが自慢。地域で「塩うずわ」と呼ばれるソウダガツオの塩漬けや塩辛、向かいのお肉屋さんの焼き豚など、しっかりと食材の味がきいたピザはビールにもぴったり。
 

写真は、あじの塩干しとトマトソースを使ったピザ、新じゃがいもと青貫水産の塩辛を使ったピザのハーフ&ハーフ
 
三鷹、吉祥寺などのビストロで働いたのちに、この地に2人の店を構えた向井研介さんと日香さん。ケニーがこの街にできるという噂は開店準備中から地元の人づてに、自然と広がっていったといいます。
 
川口:「新しいお店ができると、すぐ噂が町中にまわるんです。ケニーのときもみんな噂していて」

研介さん:「1カ月くらい自分たちで内装とか工事をやっていたときに、若者がなにかやってるなと、通りすがりの地元の方が声をかけてくれて。それが宣伝になりました」
 
川口さんによると、真鶴の移住者は今年に入ってから20代前半から40代まで、すでに10人ほどいるそう。ケニーの2人も同じく、川口さんの存在が移住するきっかけになったと言います。


 

研介さん:「真鶴は便利ではないし、ほんとうに好きでないと越してこないし、遊びにもこない。そういうところが同じ波長の人たちを呼ぶというか……

一方で、ケニーで働いたことをきっかけに真鶴に惚れ、そのまま移住を決めてしまった人も。真鶴出版に加えて、ケニーもまた、新たに移住する人の窓口になっています。
 
「とりあえずケニーでいっか、と言ってもらえるお店が理想」。日香さんが語るように、開店から1年7カ月(取材時)、すでに地元の人にとってのハレとケを飾る店として馴染んでいるケニー。もともと商店街だった通りにお店があるため、研介さんと川口さんは2人で「商店街やろうか」とも話しているとか。
 
 
真鶴を知るための入り口、ここにあり真鶴出版


 
ケニーをあとにし、次に向かったのは真鶴出版。4年前、川口さんと來住(きし)友美さんは真鶴に移住、夫婦で「泊まれる出版社」として、ゲストハウスと出版社の運営を始めました。ふたりによる街案内つきのゲストハウスは、なかなか予約がとれないほどの人気に。そしてクラウドファンディングによって今年、2号店をオープン(1号店は現在自宅に)するまでになりました。



 
車が通れないほどの細い路地のことを真鶴では「背戸道」と呼びます。その背戸道に囲まれた三角形の敷地に建ち、築60年の古民家を改装したのが2号店。設計は横浜を拠点に活躍するトミトアーキテクチャが手掛け、施工は地元の職人、解体と塗装はワークショップを行いながら自主施工で行ったそう。1階と2階に計2部屋をもつこの家には、真鶴らしさがそこかしこに表れています。




友美さん:「坂が多い真鶴は、無理やり平らな土地をつくって、そこに無理やり建物を建てるんです。敷地めいっぱいに建てようとするので、どうしても“歪み”みたいなものが出てきます」
 
斜面に無理やりつくった三角形の敷地いっぱいに建物を建てた結果、建物内に入ると壁が斜めに区切られ、三角形をした床の間が作られていたり、押し入れが2重になっていたり……。間取りに生まれた“歪み”が、真鶴の建物の特徴。
 

 

友美さん:「設計士さんいわく、設計士が入って建てるとこういうような“歪み”は生まれないそう。真鶴の建物は、大工さんと施主で話し合って建てている感じです」
 
真鶴の街を形成する建物の解説を聞き、実際に泊まることができる。これも、真鶴出版に泊まる醍醐味です。
 
お話を伺っているうちにも、来客が。真鶴の地域おこしの一環として役場にて企業誘致を担っている彼は、4カ月前にこの街に来たとのこと。移住しやすい環境には、こうした地域側からの工夫もあるようです。


 
 
 

 「背戸道をたどって、街に迷いこむ」
風、ひと、酒~真鶴編~【後編】 につづく