くらし談義

第2の人生を歩むために、つくり上げた自分の居場所<3/5>
近藤剛さん FINETIME COFFEE ROASTERSオーナー

小田急線経堂駅から歩いて3分ほど、商店街の通りから横道に入った静かな場所に、近藤剛さんが経営する『FINETIME COFFEE ROASTERS(ファインタイムコーヒーロースターズ』があります。築50年の一軒家を、1階が店舗、2階を住居にリノベーションし、2016年6月にお店をオープンしました。金融業界から一転、自らコーヒーショップを開業することを選んだ理由や職住近接の暮らし方を聞くうちに、どんなこともポジティブに捉えて、しなやかに人生を楽しんでいく近藤さんの姿勢が見えてきました。

築50年越えの一戸建てを店舗併用住宅にリノベーション

—お店の2階は近藤さんのご自宅だそうですね。築50年越えの一戸建てを買って、店舗併用住宅にリノベーションしたそうですが、職住近接の暮らし方を選んだのはなぜですか?
 
自分で商売をするなら、働く場所と住む場所は近くがいいと思っていたこともありますが、家族と暮らす家と店舗の両方を借りるのは、経済的に負担が大きいというのも理由でした。
 
会社を辞めてコーヒーにハマっていった頃に奥さんに出会って結婚して、同じタイミングで、コーヒー店を出す計画が僕のなかで具体的になってきた。家族とお店オープンの両方が一気に走り出して、結果として、こういう店と家の形態になりました。
 
焙煎機を置くと煙突が必要だし、焙煎したあとに豆の殻が飛ぶから、条件的に賃貸では難しかったんです。賃貸だと、保証金が100万円以上かかるのもデメリットでした。
 
お店がオープンした年に子どもが生まれまして、子どもがまだ小さいので、職場の上が家というのはとても便利ですね。今、子どもは昼間は保育園に行っているのですが、職住近接の暮らしは子育てしやすいと感じています。

店の前は道路と入り口が曖昧になった土間のような空間。晴天時は外のベンチが気持ち良く、お客さん同士の自然な交流も生まれる

—とはいえ、築50年越えというのは、抵抗がありませんでしたか?
 
ここは駅から徒歩3分。この立地で新築は予算的に買えないのと、もともと古いものが好きなので、築50年越えでも気にならなかったです。この家は、最後の3年くらいは空き家だったようで、最初に見たときは草が生い茂ってすごい状態でした。でも、リノベーションすれば生まれ変わるのは分かっていたので、立地の良さも考えてここに決めました。
 
—近藤さんの店舗併用住宅づくりをコンサルティングしたリビタには物件探しの段階から相談して、設計もリビタの紹介で出会った成瀬・猪熊建築設計事務所に依頼なされたそうですね。
 
「中古の戸建てを店舗併用住宅にしよう」とは思いつきましたが、何からどう取り組めばいいのかわからなくて(笑)。まずはプロに相談すべきだと思って辿り着いたのがリビタでした。リビタの担当者はコーヒーが好きで、初めて会ってすぐに意気投合しましたね。
 
設計に具体的なこだわりは無くて、ひとつだけお願いしたのは、この土地は両サイドに家が建っていて暗かったので、明るくしてほしいということ。リビタの担当者や設計を担当した成瀬・猪熊建築設計事務所の設計者は、話をしたときの雰囲気とか、10まで言わなくても分かり合える感性を持った信頼できる方たちだと思って依頼しました。

奥様とお子さんと暮らす2階の住居部分。ダイニングは、元の柱や梁が現しになった一軒家リノベーションらしい空間

—古いだけでなく、借地権付き物件でもあったそうですね。一般的に借地権付き物件は住宅ローンが通りにくかったり、毎月地主に地代を払う必要もあります。購入の大きなハードルになりそうですが…
 

借地権は、土地代が安くなるから、逆にラッキーと思ったくらい。地代は固定資産税などの代わりだと思って割り切って、経営計画を立ててやっていこうと思いました。借地権があるとローンが通りにくいのは事実だけれど、上手くいかなかったら買わなかっただけです。
 
実際、物件購入費用とリノベーション費用の調達は難しかったけれど、リビタの担当者さんもいろいろ調べてくれて、最終的には物件の購入費用に住宅ローンを適用して、リノベーション費用は公庫や公的機関の創業支援助成などで賄いました。
 
借地権付き物件だったことよりも、リノベーション費用の見積もりが想定していた金額の倍で出てきて、その調整が大変でしたね。
 
—特に古い戸建てのリノベーションは、マンションリノベーションよりも費用の見立てが難しそうですね。どうやって乗り越えたのですか?

 
耐震と断熱はきちんとしたかったので、主に見た目の部分でちびちびと要望を削ってコストダウンしていきました。ベランダを無くしたり、壁は石膏ボードにクリアラッカーを塗って意匠にしたり、柱や梁は現しにしたりして、最終的にリノベーション費用を3000万円まで削りました。
 
—予算管理や経営計画は、MBAや金融時代の経験を生かせる部分も多そうですね。
 
ローンを組むときに金融機関に提出する事業計画書などで役立ちましたね。計画書は机上の空論にすぎないけれど、今思えば「数字を見れる」というのがお金を貸す側にとっては大切だったのだと思います。営業的に順調だけどダメになる店は、キャシュフローが見れていないんです。そこはみんな嫌がるところで、僕も好きではないけれど、仕事でやってきたから理解はできるんです。MBAと前職での知識を活かして、『FINETIME COFFEE ROASTERS』で小商いの経営企画講座とかやろうかな(笑)。
 
—その講座、「受講したい!」という人がたくさんいると思います!小商いを始めたくても、数字部分は苦手という人が多そうですから。

カウンター席の天井は築50年を感じさせる梁が露出。2階のトップライト越しに光が届く、上の住まいの気配を感じる造り