豊かに暮らすひと

デジファブで叶える贅沢で
頑張らない暮らし方<1/4>
秋吉浩気さん VUILD株式会社 代表取締役

デジタルデータを元にものづくりを行うデジタルファブリケーション技術と建築分野を組み合わせて、建築産業の変革を目指すVUILD。全国56拠点に3D木材加工機『ShopBot』を導入し、誰でも簡単にものづくりに取り組める環境整備を進めています。2018年には、オンラインでオーダーメイド家具を自由に設計してShopBotで出力できる『EMARF(エマーフ)』をローンチし、素人でも“家具の地産地消”ができるプラットフォームを作り上げました。デジタルファブリケーション技術を使って富山県の中山間地域に建てた『まれびとの家』は、2020年度のグッドデザイン金賞を受賞しています。今回秋吉さんが語った“頑張らない”ものづくりと暮らし方は、コロナ以降の豊かで楽しい生活を予感させてくれるものでした。

PROFILE

秋吉浩気(あきよし・こうき)
VUILD株式会社代表取締役。アーキテクト・メタアーキテクト。1988年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科を卒業し、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域にてデジタルファブリケーションを専攻。2017年にVUILD株式会社を創業し、「建築の民主化」を目指す。デジタルファブリケーションやソーシャルデザインなど、モノからコトまで幅広いデザイン領域をカバーする。主な受賞歴にSDレビュー入選 (2018)、SDレビュー入選 (2019)、Under 35 Architects exhibition Gold Medal賞(2019)、グッドデザイン金賞(2020)。


デジタルファブリケーションで“家が家族化”する

―VUILDが展開している『ShopBot』と『EMARF』があれば、誰でも自分好みの家具を設計してつくることができます。秋吉さんはデジタルファブリケーション技術を使って、ものづくりの新しいシーンを創出しているように感じます。
 
たとえば、デザインを専門的に学んでいない人でもiPhoneでEMARFを操作して作りたい家具をデザインすれば、ShopBotがそのデザインを作るための木製部品を切削してくれる。その木材を組み合わせれば、簡単に自分が設計した家具がつくれる。こんなふうに、デジタルファブリケーションを使って“自分が考えたことは実現できる”と実感してもらうことを重要視しています。しかもそれを“頑張らずに”やってほしいのです。僕たちはエンドユーザーと一緒にものづくりをしたいけれど、それは頑張ってDIYをするということではなく、楽ちんな方向で楽しくやりたい。すでにDIYはものづくりのひとつの方法として洗練されてきていますが、そこに興味がない人でも精度の高いものづくりができる社会になればいいと思っています。

秋吉さんの言う「メタアーキテクト」とは「誰もが建築に参加できる環境づくりを進める人」のこと
秋吉さんの言う「メタアーキテクト」とは「誰もが建築に参加できる環境づくりを進める人」のこと


―新型コロナウイルスの影響で家にいる時間が増えて、改めて暮らし方を考える人が増えています。VUILDが目指す欲しい家具を簡単に自作できる世界は、まるでコロナ出現を予測していたような取り組みです。
 
僕たちのサービスはコロナ以降の世界にすごくアダプトするけれど、コロナ以降の世界を想定して始まったわけではないです。コロナでもそれ以外に起こる生活様式の変化でも、何にでも対応できる臨機応変さがあるサービスです。コロナで浮き彫りになったのは、住まいに自由度が欲しいということだと思うんです。
 
例えばリビタさんと進めている組み立て式の箱型モジュール『doredo(ドレド)』は、箱を積んでいくことで家具や壁をつくり、家族が室内を自由に変えられる仕組みです。そこにAIを入れて温熱環境や家族の行動履歴を学習させれば、夏は涼しい方角に部屋をつくり、家族が増えたら壁が移動するなど、毎日少しずつ家族が快適に過ごせる室内に変わっていく住まいができる。これは極端な話ですが、『doredo』のような部屋を構成する建築の小さな要素を自分たちで組み合わせることができれば、自由度は高まります。例えば、コロナで夫婦のどちらも家で働くという状態になったときに、お互いの音を緩衝しない空間が必要になりました。今まではそこに根本的なソリューションが無かったのですが、そもそも自分たちで簡単に壁を組み替えられるようにしておけば解決できます。

Shopbotはコンピューターによる自動制御がついたCNCルーター。誰でも簡単に木材の2D・3D切削ができる
Shopbotはコンピューターによる自動制御がついたCNCルーター。誰でも簡単に木材の2D・3D切削ができる


―引越しをするとイチから新しい空間をつくりなおすのが当たり前の感覚でしたが、そうした“家族の行動を学習した持ち運べる壁や家具”があれば、快適につくった空間を別の場所でも再現できますね。
 
今は売却や引越しのたびに空間を壊してしまいますが、それだと資産として残りづらいですよね。例えば最初に『doredo』を50ブロック使って空間をつくり、子どもができたら50ブロック追加して100ブロックで部屋を構成する。子どもが出ていくときは50ブロックを持っていって新しい部屋をつくる。こんなふうに空間をインフィルでつくっておけば、それが持ち運べる資産になって身動きが取りやすくなるのではないか。住む場所や空間に縛ばられずに、自由に暮らせるのではないか。僕たちは『家自体が家族になる』というコンセプトで活動しています。
 
―AIがもう少し社会基盤に入り込んだ社会では、そんな空間づくりが当たり前になって、文字通り“家が家族化”するかもしれません。
 
すでに技術的な背景はあって、こうなるだろうというシナリオは持っているんです。コロナはそのシナリオを進めるトリガーになった。僕たちがコロナ禍で感じているのは、思ったよりもそれが早く来た。逆に早すぎたのではないかということです。1~2年後だったらARや5Gの技術が育って民主化された状況になっていたと思います。そういう状態でコロナ禍がきていたら、もっと爆発的にライフスタイルが変わっていたかもしれません。

ブロックを組み合わせ空間をつくる『doredo』。リビタでインフィルを作ったモデルルームを公開予定(photo_Hayato Kurobe)
ブロックを組み合わせ空間をつくる『doredo』。リビタでインフィルを作ったモデルルームを公開予定(photo_Hayato Kurobe)