くらし談義

北欧のライフスタイルに教わった「フィットする暮らし」の心地よさ。<3/5>
青木耕平さん・佐藤友子さん 「北欧、暮らしの道具店」運営・株式会社クラシコム

食器、日用品、ファッション小物など、暮らしの道具を紹介している『北欧、暮らしの道具店』。日々を心地よく暮らすための提案が詰まったさまざまな読み物も人気のネットショップです。ショップを運営する株式会社クラシコムは、「全員18時退社残業なし」というワークスタイルを徹底しながら業績アップを続ける企業としても注目を集めています。今回はクラシコムの代表取締役・青木耕平さんと、『北欧、暮らしの道具店』の店長も務める同社取締役の佐藤友子さんに、「フィットする暮らしづくり」についてお話を伺ってきました。

全員18時退社に社内保育。「当たり前の暮らし」を送るための働き方
 
―クラシコムは「9時出社18時退社、残業なし」を実践しながら業績アップを続ける企業としても注目されています。現在のワークスタイルに至った経緯を教えてください。
 
青木さん 北欧へ行ったとき、僕は現地の人々の働き方に刺激を受けました。北欧には、日本人でもその名を知っているようなグローバル企業がたくさんありますが、その企業のビルが19時くらいになるともう真っ暗なんです。僕ら日本人よりも短い勤務時間で経済的に成功していることに驚きを覚えました。さらに、国民一人当たりの名目GDPも日本よりはるかに高かった。佐藤とはポイントが異なりましたが、僕も北欧の人々の暮らしぶりを見て起こった感情は、悔しさだったんです。
 
彼らより長い時間を働いてビジネスが成長したとしても、勝っていることには全然ならない。なら、同じ条件でやってやろうじゃないか、と(笑)。日本の企業では「デスクに長くいること」が求められがちですが、決められた時間内に成果を挙げることができるほうが優秀だし、認められるべきことですよね。そうした合理的な考えも、9時出社18時退社のワークスタイルを実践している理由です。
 
それから、北欧では女性がみんなパワフルに働いていることも印象に残ったことでした。国の経済を担ういち働き手として、社会での立場が確立されているんですね。女性のエクゼグティブも多くて、そういう人たちが夕方になったら子どもを保育園に迎えに行き、会社に連れて来て、オフィスの一角で絵を書かせたりして遊ばせて、定時になったら一緒に帰る。そうした光景にも衝撃を受けました。
 
―青木さんと佐藤さんのお子さんも、学校や保育園のあとはオフィスに来て過ごしているそうですね。
 
青木さん 結婚して子どもを産んで育てて、ということは、食事や睡眠と同じように、日常の中で起きる出来事。社員が日常的な生活を送ることで潰れてしまう会社なんて、やばいですよね(笑)。子育てしながら働くということは日常であり、決して特別なことではないんです。
 
僕らの会社は事業内容的に、女性のスタッフが中心になることは目に見えていました。産休を取ったり、子育てしながら働くスタッフが出てくることは想像がついたし、創業当時、僕自身すでに子どもがいて、共同創業者である佐藤も数年以内にそうした状況になる可能性が高かった。そうなっても、それまでと変わらないペースで事業を稼働できる体制と環境をつくることは、創業当時からの取り組みでした。
 
最終的には、社内保育ができる環境をつくりたいと思っています。今はまだ子どもがいるスタッフは少ないのですが、スタッフの平均年齢的に今後、ペースが加速すると思っています。保育スタッフの採用が次の段階ですね。
 

子連れ出社に対応すべく、オフィスの一角に設けられた畳スペース。働く親たちの姿が見えるようにと大きな窓を設置。
 
―最近オフィスを増床して、子連れ出社するスタッフが作業できるようにと畳スペースをつくられたそうですね。オフィスづくりでこだわったのはどんなことですか?
 
青木さん 物件として求めたのはワンフロアの広さと、自然光での撮影するための採光性が確保されていることでした。今のオフィスは最初、下のフロアだけ借りていたのですが、先日上階も借りてリノベーションしました。
 
リノベーションの設計は建築家の井田耕市さんにお願いしました。ナチュラルでシンプルなデザインを得意とされる方で、過去のオフィスも同じく井田さんの設計です。撮影場所の位置やオフィススペースの広さといった、スペック的なところはもちろん意見しますが、テイストについては完全に井田さんにお任せ。こだわったポイントを挙げるとすれば、それは「居心地の良さ」かもしれません。
 
天井はできるだけ高く開放的に、スタッフ1人あたりのデスクもなるべく広く。白い壁天井と無垢のオーク床というナチュラルな内装も、できるだけリラックスできる空間にしたいという思いから。スタッフが感じるあらゆるストレスをなくすことは、会社の生産性を上げるための何よりの手段だと思いますね。
 

オフィスの「家化」が促すコミュニケーションとクリエイティビティ
 
―ソファコーナーも最近、新たにつくったスペースだそうですね。
 
青木さん スタッフ同士やエクゼクティブとの間に、自然なコミュニケーションが生まれる場になればと思って設けました。純然なネットショップとしてやっていた頃は、いかに生産性を高く実行するかということが求められる、オペレーティブな会社だったんです。でも今はメディア色が強くなり、食品などのオリジナル商品の開発製造や広告のビジネスも始め、クリエイティビティが求められる会社になってきました。クリエイティビティを発揮するためには、コミュニケーションは欠かせないものです。
 

30人以上いるスタッフの社食をつくるキッチン。広々して明るいキッチンは、スタッフの憩いの場にもなっているそう。
 
―北欧カラーで彩られたキッチンも素敵です。このキッチンで社食を作ってらっしゃるそうですが、社員食堂を始めた理由も社内コミュニケーションの促進だったのでしょうか?
 
青木さん きっかけは、スタッフの声でした。僕らの会社は合理主義的かつ個人主義的なところがあるので、18時になればみんなパッと帰るし、スタッフ同士でランチを食べに行くこともあまりなく、「自由だけど、寂しい会社だよね」と言われてしまったんです。そこで、業務時間内にそうした機会をつくるために、ランチタイムに社員食堂を導入しました。週に2回、料理家のフルタヨウコさんに社食を作っていただいています。
 
佐藤さん スタッフが増えてくると、一人ひとりと話す機会がどうしても減ってきてしまうのですが、朝のコーヒーを淹れるタイミングだったり、キッチンからいい匂いが漂ってきたりすると、みんながキッチンに集まってきて、会話が生まれるんです。キッチンをつくったときにはそこまで想定していなかったのですが、今ではキッチン自体がコミュニケーションの場になっています。
 
―キッチンを始め、無垢のフローリングやソファ、畳スペースなど、クラシコムのオフィスは住まいのような要素がたくさんあります。
 
青木さん 「居心地の良さ」を求めたら、家っぽくなりましたね。先ほど会社としてクリエイティビティが求められるようになってきたという話をしましたが、緊張した雰囲気の中では、クリエイティビティって湧いてこないと思うんです。デスクに座っていることが重要ではなくなってきている中、オフィスが家化していくのは当然の流れだと思いますね。