豊かに暮らすひと

ともに生き、ともに働くとはどういうことか。日本初「インクルーシブ公園」からあるべき共生社会を問う<1/4>
龍円あいりさん 都議会議員

場のプロデューサー・横石崇の『しごとば探訪』。連載4回目に訪れたのは、東京都世田谷区の砧公園内に日本初のインクルーシブ公園としてオープンした「みんなのひろば」です。障害の有無に関係なく「みんな」が一緒になって遊べる場として作られたこの公園。実現に向け奔走した都議会議員・龍円あいりさんのお話から、真にインクルーシブな社会とはなにかを考えます。―この記事は、働くと暮らすが同居するさまざまな空間を訪問することで、これからのオフィスづくりや新しい働き方のヒントを探るコラムです。

PROFILE

龍円あいり(りゅうえん・あいり)
1977年生まれ。スウェーデン・ウプサラ市出身。都民ファーストの会所属の都議会議員(渋谷区選出)。元テレビ朝日アナウンサー・記者。子どもたちが生きていく社会を変えるために、2017年に都議会議員に。 ダウン症のある息子を育てるシングルマザーでもある。

東京都世田谷区の砧公園内に2020年3月、日本初のインクルーシブ公園として「みんなのひろば」はオープンしました。インクルーシブ公園とは、障害のある子どもでも安全に遊べる遊具や配慮があり、文字通り「みんな」が一緒になって遊べるような公園のこと。東京都議会議員で、自身もダウン症候群の息子を育てる母親である、龍円あいりさんの働きかけがきっかけとなって作られました。

最近になってここ日本でも「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を耳にする機会が増えています。けれども、ぼくらはその意味するところを本当に理解していると言えるのでしょうか。少なくとも、オフィスをバリアフリーにデザインし直し、管理職の女性比率を上げ、障害者を一定数雇用すれば万事OK……という話ではないように思えます。

真にインクルーシブであるとはどういうことなのか、インクルーシブな社会やオフィスについて、ぼくらはどう考えればいいのか、海外での暮らしも長い龍円さんに詳しく伺いました。


母となって帰国し、直面した日本の公園の「寂れ感」



横石 ぼくはこれまでインクルーシブ公園という言葉を聞いたことがなかったんですが、これはどういったものなんですか?
 
龍円さん 実は、インクルーシブ公園という言葉は、私がいまの活動を続けていく中でつくった造語なんです。活動を始めたきっかけは、アメリカ・カリフォルニア州で出産したこと。子どもにダウン症があり、私はスペシャルニーズのある子どもの親になりました。

横石 アメリカではどの辺りで暮らしていたのでしょうか?
 
龍円さん オレンジカウンティという、ロサンゼルスのすぐ南の、海岸沿いのサーフタウンに住んでいました。本当に小さな町だったんですが、家の近くで遊んでいた公園が偶然にもインクルーシブ公園で。でも、公園に行くと特に「インクルーシブ公園です」と謳っているわけではなくて、ごく普通にインクルーシブな公園という感じでした。
 
横石 町に馴染んでいるというか。
 
龍円さん そう。あえて大々的に謳うまでもない。Webサイトには一応その旨が書いてあるんですが、公園自体はごくごく普通にある。私は子どもが生まれたのをきっかけに、障害のある子どもの幼児教育の先生になるための授業に通い始めて、そこでインクルーシブな遊び場があることを学びました。「へー」と思って調べてみたら、なんといつも遊んでいる公園が、そのインクルーシブ公園だったという。そういう目線であらためて見てみると、たしかにさまざまな工夫が施されていた。
 
アメリカでそういう体験をしていたので、その後、子どもが2歳の時に帰国して、子どもがいる状態で初めて日本の公園を見たら、「あれ? 日本の公園ってこんなに寂れていたっけ?」みたいに感じてしまって。インクルーシブでないことよりも、その寂れ感にびっくりしました。「子どもたちの遊び場にこんなにお金をかけない国だったのか」と。
 
横石 「寂れ感」というのは、例えばどういうことですか?

龍円さん 固い土の上に塗装がはげた遊具がポツンと置いてあって、児童公園という名前はついているけれど、遊んでいる子どもは全然いない。近くにハトとタバコを吸ってる大人だけがいる、というような。アメリカに行く前はそれが日本の公園の姿としてごく自然に映っていたんですけど、アメリカの公園を見て帰ってきた後は、寂れた場末の公園にしか見えなくなっていました。ですから、インクルーシブどうこうの前に「日本の公園をもうちょっと良くしたい」という思いがまずありました。
 
さらに、スペシャルニーズのある息子を遊ばせようとすると、まず歩けないから、地面が土だと這いずるだけで服がボロボロに汚れてしまう。階段が急だったりして安全性も確保されていないので、落ちると怪我をする危険もある。親としてはハラハラドキドキしながら遊ばせるので、子ども以上にぐったりと疲れてしまうんです。



横石 子どもは無邪気に遊びたい思いが先行しますよね。意外と公園の中には危ないものもあったりしますから、親は心配です。
 
龍円さん ほかの子どもとの関係でも、少し体幹が弱かったりするから、ちょっとぶつかると落下する危険があり、いつでも受け止められるように後ろをくっついて歩く必要があって。インクルーシブな視点がないな、と。本来はいろいろな子どもたちがいるはずなのに、日本の公園にはスペシャルニーズのある子どもたちが遊んでいない。なので、都議会議員になる時に「インクルーシブな社会を実現したい」ということを一番に思ったのですが、その中の公約の一つとしてインクルーシブ公園というものを挙げさせてもらいました。