豊かに暮らすひと

アフターコロナで考える。
アートの健康な使い方<2/4>
秋元雄史さん 東京藝術大学大学美術館館長・教授

ベネッセアートサイト直島の地中美術館初代館長を経て、金沢21世紀美術館館長を務め、現在は東京藝大の美術館館長・教授としてアーティストの育成も手掛けている秋元雄史さん。現代アートを限られた人たちだけの教養ではなく誰もが日常で楽しめるものと捉えて、芸術への認識の成熟を促し、その可能性を広めています。リビタがプロデュースする『KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS』に設置するアート作品の公募では、審査員を務めました。長く現代アートの最前線でアーティストとアートを見つめてきた秋元さんに、日本の現代アートの現在地やアフターコロナのアートのありかたについて話を聞きました。


文化的に暮らしを楽しむことが後ろめたい?

―各国のコロナ対応策を比較して日本は芸術文化に対する助成が少ない等の報道を見ると、日本の文化成熟度はまだまだなのかなと思ってしまいます。

アート先進国と言われているドイツやフランス、イギリスと比較すると、作家の制作のしやすさという意味では、日本はまだまだかもしれないですね。日本の文化政策は、文化財保護が第一なので、現代アートには基本的に興味が薄いです。ただ、高いところを望めばいろいろあるのはどの業界も同じで、アートをやろうと思えばやっていけないこともない、そういう土壌が日本にはあると思います。

―秋元さんは1991年に直島のアートプロジェクトを手掛けられてからずっと、現代アートを生業にしてきました。日本のアートの進んできた道を、秋元さんはどんなふうに見ていますか?

日本のアートと大きく構えると私の語れることはささやかなことしかないです。いいこともあれば、悪いこともあるので、総体を一言で言うのは難しいです。ただ、経済大国と言っていた80〜90年代にもう少し丁寧に文化にお金を使えば良かったかなあ……そうすれば結果が違ったかなあ、とは思いますね。後の祭りですが、国力から見てもう少し文化的に成熟してもよかったんじゃないかな。

今でもそうかもしれないけれど、日本人は、文化的なことにお金を使うのに後ろめたい気持ちがあるのかもしれない。文化と経済活動を結び付けて考えにくいのではないでしょうか。経済というのは、もっと地に足がついているものだと考えている。「もっと真面目にやらないといけない」と思いすぎているのかな? 日本という国の成熟度を考えると、経済的な指標だけで社会を測っていく開発型の発想は、だいぶズレている感じがしますけれど。


”アートの楽屋裏”から現代アートを楽しむ

―最近はアートをテーマにした施設が増えていて、文化を楽しむ「場」は用意されてきていると感じます。

僕は、現代アートが暮らしに近いところにあったり、いろんな生活の場面を構成するモノであることは良いことだと考えているので、そんな場がどんどん増えたらいいと思います。日常的に人を癒したり、気持ちを高揚させるものとして、暮らしの中にアートがあるのはいいことですね。

―今日お話を聞いている『KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS』は、ホテル内にアートストレージが併設されています。このような空間の使い方についてはどう思われましたか?
 
面白いと思いましたよ。展示ではなくて、収蔵されているアートを体験するホテルというコンセプトがユニークです。アートにとっては、ギャラリーに展示されているのが最も“おすまし”をしている状態で、倉庫に置いてあるアートというのは、楽屋裏にいる俳優みたいなものでしょう。楽屋裏だから素の状態が出ていて面白いと思うし、楽屋裏でも成り立つアート作品を感じてもらえる。楽屋裏を見せることが、ホテルのエンタメを構成するものになっているという構図が面白いと思います。次は、それを本当に面白いと思って鑑賞する感性を持っているお客さんが増えたらいいなと思いますね。

【KAIKAで秋元雄史さんに聞く】KAIKA地下の現代アートストレージは宿泊者だけが楽しめる舞台裏
『KAIKA 東京』の地下にある現代アートギャラリーのアートストレージは、宿泊者だけが楽しめる”現代アートの舞台裏”



我々は現代アートを仕事にして慣れ親しんでいるから、現代アートにハードルの高さは感じないけれど、ホテルに泊まりにくるお客さんからすれば、特別な場所ですよね。美術品倉庫をホテルの一つの個性としてプレゼンしようと考えた企画者はすごい。普通、アイデアは持っても実際にはやらない。なかなか勇気が出ないですよ(笑)。美術関係者としては、現代アートをこんなふうに使ってもらえるのは嬉しいです。使ってほしいと思っても、実際にはホテルの経営側がやろうとしないと実現しないわけですから。

―アーティスト側はどうなのでしょうか? 美術館にきちんと飾られることがアーティストの成功パターンという価値観はありますか?

もし美術館に飾られれば、それは嬉しいだろうけれども、美術館じゃなきゃ飾られたくない、という作家は少ないと思いますよ。アーティストは自分の制作した作品を一人でも多くの人に見てもらいたいといつも思っているので、さまざまな場で展示される機会があることは、これもチャンスだと喜ぶと思います。必死に作った作品なので、とにかく見てもらいたいというのが正直な気持ちだと思います。

こうした場が増えることでもう一つ願うのは、アートのセンスをそれを見る人の暮らしに取り入れてもらえるといいなあ、ということ。作家の表現やセンスは、自分たちの普段の暮らしとは違うと思うかもしれないけれど、自分が興味を持てば、アーティストの個性やセンス良さを、自分の暮らしに取り入れちゃってもいいと思います。

【KAIKAで秋元雄史さんに聞く】秋元さんが審査員を努めた公募作品『drawing of one day』(新藤杏子 さん)
館内には秋元さんが審査員を務めた公募作品も多数展示。秋元さんの背後の作品は『drawing of one day』(新藤杏子)