豊かに暮らすひと

多拠点間の移動が発想の発露
複数の居場所が結ぶ縁<2/4>
関 祐介さん 建築デザイナー

Yusuke Seki studioを主宰する関 祐介さん。波佐見焼・マルヒロの直営店など話題の建築デザインやリビタのTHE SHARE HOTELS『KUMU 金沢』『TSUGU 京都三条』を手掛け、海外からの注目も高いデザイナーです。神戸・東京・京都の3つの拠点を持ち、日常的に国内外の長距離移動を続ける関さんに、移動中に考えている思索の道のりを話してもらいました。身の回りにあるものに好奇心を持ち、オープンマインドに他者とつながり、タフなメンタルで仕事に取り組む姿勢は、私たちに多くの気づきを与えてくれます。

関祐介的、常識の先の発想方法
 
関さんが手掛けるプロジェクトはクールでありつつ、きちんと楽しいです。奇をてらわないけれど独特というスタイルは、どうやって作り上げていったのでしょうか?
 
僕は昔、先輩と一緒にプロダクトデザインのユニットを組んでいたことがあります。そのユニットは変わっていて、プロジェクトの依頼がくるとそれぞれ案をつくって2案出すんです。お互いにどんな案を出すのか知らない状態でプレゼンに臨むっていう、ジャズのセッションみたいなことをやっていた。それをやっているうちに、僕のアイデアは先輩とは全く違うって分かったんです。先輩とはノリやテンションが違って、そこから出てくる表現方法やアイデアが全く違う。その経験で、自分のテイストはこれなんだって理解が生まれました。
 
そして、僕の案は通らないんですよ。先輩の案は現実味があって、資料を見ていても『これはできそうだな』という確信が持てるのに対して、僕の案は無茶というか、ハードルが高い。もちろん自分の案を通したいと思ってやっていましたが、途中からは『この案が通ったらめっちゃ面白いぞ』って感じになってきた。最後のほうは先輩の案を通すための比較案みたいになっていました。アイデアがビジネスになっていない以上は失敗です。でも、こういう失敗がないと学びがない。いろんな失敗をして、スタイルが出来上がっていったと思います。
 
関さんが独立して10年、今では海外のアワードで賞を獲る建築デザイナーになりましたが、振り返ってブレイクスルーしたと思うプロジェクトはなんですか?
 
2012年に手掛けた京都の『大塚呉服店』はけっこう無茶をしたんですが、完成してから評価を受けたことで自信につながりました。築40年の豆腐屋さんを呉服店にリノベーションしたのですが、建物を見たときに当時からの歴史を残したいと思ったんですね。それで、もともとある壁や床を削って、新たなテクスチャーを出そうと提案しました。

関祐介さんが手掛けた、築40年の豆腐屋さんをリノベーションした『大塚呉服店 京都店』。『大塚呉服店 京都店』。Yusuke Seki studioは同ブランドのディレクションも手掛けている(photo Takumi Ota


一般的なリノベーションの手法だと、上から仕上げをし直したり、元の仕上げを剥がして躯体をあらわしにしたりしますよね。
 
当時、価値の変動というのをすごく考えていました。例えば石彫は、石の塊を削って作品というかたちにしていきますが、石の塊の純度の高さと、人の手と時間が入った作品のどっちの価値が高いんだろう? 一つのかたちにしたら元には戻せないから石の塊のほうが価値は高いのか? など答えの出ない迷宮について考え続けていて、そこから建物を削ることを思いついた。「剥がす」「壁をつくる」「塗装する」っていう従来の手法ではなく、第4の手法として削ってみようと思った。壁には現代では絶対につくられていないサイズのタイルが使われていて、それを削ることで目地の凹凸の影の落ち方が作用して手書きしたような線が引きたつ面白い空間になった。このプロジェクトが海外ですごくバズったんです。海外メディアの掲載も多くて、自信につながりました。

—築40年以上の豆腐屋だった『大塚呉服店』、1914年に建築された登録有形文化財が一部残る『TSUGU京都三条』と古い建物のリノベーションを手がけることも多く、ここせきのやも築100年を超えています。古い建物に対して、それを活かしたいという意識があるのでしょうか?
 
古い建物を壊して新しく建てることも文化なので、『断固として古建築を残そう!』という感じではないです。文化の流れとして解体するのは仕方がないこともあるし、古い建物を残すことで足を引っ張ることもあると思う。ただ、建物には建てた人たちの意思や意図が入っていて、当時の人たちはここを面白がったのかなとか……まあ、そこまでポエティックには読み取らないけれど、ある程度は気にしています。僕は、古い建築の力を借りているだけなんです。ゼロから何かを立ち上げるってすごいパワーがいるけれど、時間を経てきた建物のポテンシャルに乗っかればできることがあるんです。
 
登録有形文化財である棟の尖塔が見えるように設計されている『TSUGU 京都三条』の宿泊者専用リビング・キッチンの窓@関祐介さん『TSUGU 京都三条』は、宿泊者専用リビング・キッチンの窓から、登録有形文化財である棟の尖塔が見えるように設計されている