豊かに暮らすひと

多拠点間の移動が発想の発露
複数の居場所が結ぶ縁<1/4>
関 祐介さん 建築デザイナー

Yusuke Seki studioを主宰する関 祐介さん。波佐見焼・マルヒロの直営店など話題の建築デザインやリビタのTHE SHARE HOTELS『KUMU 金沢』『TSUGU 京都三条』を手掛け、海外からの注目も高いデザイナーです。神戸・東京・京都の3つの拠点を持ち、日常的に国内外の長距離移動を続ける関さんに、移動中に考えている思索の道のりを話してもらいました。身の回りにあるものに好奇心を持ち、オープンマインドに他者とつながり、タフなメンタルで仕事に取り組む姿勢は、私たちに多くの気づきを与えてくれます。

PROFILE

関 祐介(せき・ゆうすけ)
Yusuke Seki studio主宰。リビタのTHE SHARE HOTELS『KUMU 金沢』と『TSUGU 京都三条』で空間のデザイン設計を担当。パリファッションウィークの空間デザインから呉服店のリノベーションまで、ジャンルを問わず様々なプロジェクトを手掛ける。現在は、神戸・京都・東京に拠点を持ち、2020年にはベルリンにも拠点を置く予定。
<受賞歴>The Great Indoors Award、The American Architecture Prize Platinum Award、
The German Design Award、その他

 

日本と海外という境界線をつくらない
 
関さんはこれまで、あまり日本のメディアに出てきませんでした。ホームページも英語表記です。これは、活動の対象が海外ということですか?
 
海外とつながっておきたいという思いがあります。僕はもともと、裏原宿のファッションに影響を受けています。裏原宿のブランドは自分たちの好きな服をつくって、それが世の中に面白がられて海外に広がっていった流れがあって、そこに憧れます。それに、海外の人は物事の見方も文化も違うから、彼らとの交流が自分の刺激になって見解が広がる。実際、人との距離の取り方は、海外の人たちと交流したことで相当変わりました。

― 一方で、関さんが手掛けるプロジェクトは日本国内のものも多いです。
 
なんというか……、謎を残したいんです。存在感のある作品をつくりながら、それをつくっているのが誰なのか謎っていう、ふわふわした感じでいたい。なんでもインターネットで調べられる今、情報が無い人というのもいいと思う。『誰よ、この人? よく分かんないけど知りたくなるよ』って。ただ、最近は日本のメディアに出すことも増えています。

関さんは、日本と海外といった“国”で境界線を引かず、シームレスに活動しているイメージを持ちます。
 
日本と海外では施工レベルもコミュニケーションの取り方も違うから、どうやっても取り組み方は変わっちゃうんです。だったら、最初からフラットにいこうと思う。海外だからって合わせにいっても、そこからさらに変わったら最悪でしょう? 違うということが僕の経験になるし、仕事相手にしてみたら、『これが日本のやり方なのか』って、彼らの経験にもなる。それでいいんじゃないか。そこで仕事が無くなるなら仕方がないし、それを面白がってくれるなら最高。どんなクライアントにも常にフラットでいるのが大切で、そういう心持ちでいるために多少のノイズが入っても自分をぶらさないように心がけています。自分のやり方とか考えている時間を常に一定にキープするようにして、心の中に波風を立てないようにするんです。

拠点のひとつ、京都『せきのや』で行った、関 祐介(せき・ゆうすけ)さんへのインタビュー
拠点のひとつ、京都『せきのや』で行ったインタビュー。国内外を移動し続ける関さんに、京都で会えたのはなかなかの僥倖


多拠点を持つと、発想の刺激が増える
 
関さんは東京・京都・神戸の3拠点を持っていて、今年はベルリンにも拠点を持つそうですね。多拠点を持つことで、移動時間が増えますが、時間の使い方で気をつけていることはありますか?
 
移動することは重要です。『この時間までに必ず移動しないといけない』という区切りができて、体ごと空間を超えちゃうから、締め切りの作り方が楽になる。同じ場所でだらだらと仕事をするよりも、移動するほうが頭も切り替わります。
 
ただ、移動中にボーっとしていてはダメで、常に考えるようにしています。移動することで見ているシーンは切り替わるんですが、考え続けることで移動している場所や状況、自分のいる条件の変化っていう刺激が、考えに影響を与える。体もマインドも一定なんですが、『場所を移動した』という事実が、体やマインドに刺激を与えて、そこから何かが生まれる瞬間になっている気がします。

関さんがプロジェクトを手掛ける場所は、国内外に点在しています。どうやって、その土地の力を汲み取っているのでしょうか?
 
街じゅうを歩き回って感じる街の違和感を、どんどん写真に撮ります。Instagramのストーリーズには、その違和感がたくさん上がっています。撮影をするというのが最低限で、それをオンラインにアップする一手間をかけることで、情報をふるいにかけている。アンテナを張って、面白いと感じるものを見てどんどん蓄積をしています。
 
感覚的には、自分の中に面白いものごとを詰めた引き出しがあって、それをプロジェクトごとに自然と取捨選択している。プロジェクトは条件が違うということでしかなくて、『このプロジェクトだからこの引き出しを出そう』という感覚ではない。一つのプロジェクトを特別なものと捉えてしまうと、バランスがくるってしまう気がするんです。

 
物々交換で成り立つ、京都の拠点
 
今日は、京都の拠点である町家『せきのや』でお話を聞いています。ここは、関さんがいないときは友人たちに貸しているそうですね。
 
海外の友だちが京都に来たときに泊まってもらったり、友だちの友だちを紹介されて泊めたり……僕が会ったことのない人も泊まっていて、面白いですよ。宿泊料はもらっていないんですが、生活に必要なモノを用意しておかなくても、泊まった人たちが布団、本、お酒や器などを置いていくので生活できます。ビジネスの貸し借りとは違って、ここでは物々交換による価値の交換という原始的な行為が成り立っている。利益がないところの交換ってすごく面白いし、置いてあるものすべてにエピソードができる。すでに家具が入っている東京や神戸の拠点ではできないことですね。
 
奥に細長い空間で特徴の築100年以上の町家築100年以上の町家は、まさに『うなぎの寝床』。奥に細長い空間は、借り受けた当時からほとんど手を入れずに生活している


場所があることで出会いが重なって、さらに厚みのある場所になる。そこから新しく楽しいことが始まっていくなら、拠点が多いほど毎日は楽しくなりそうです。
 
3拠点あれば、3倍以上楽しいし、周りには楽しい仲間がいっぱいいます。海外の仲間も多いのですが、僕は正直なところそんなに英語を流暢に話せるわけではないんです。でも、コンセプトを持って表層的ではないものをつくっていると、『コイツには何かあるな』って思ってもらえる。特にヨーロッパの人たちは、そういうコンセプチュアルなものが好きです。
 
あと、人と仲良くなるコツは、美味しいものを知っていることかな。お店を知っていると人から誘われやすいし、『いまココにいるんだけど、どのお店に行ったらいい?』って連絡がくる。美味しいもの、自分が食べたいもの、興味があるごはん……好きなものを食べることを大切にしています。
 
長距離を移動することが当たり前の暮らしをしていると、住まい観は変わりますか?
 
住む場所があることのありがたみは変わりますね。最初はホテルでいいと思っていたけれど、拠点を持って自分の場所ができたら、すごく安心するようになりました。拠点が一つだったときの家は寝る場所でしたが、多拠点になったら、それぞれの街に『自分がいるな』というのを確認しに来ている気がします。
 
先日NYに滞在したときは、NYの友だちのアパートメントに泊まったのですが、ホテルに泊まるよりもこの街に自分がいる感覚、街に入り込んだ感じがあって、それがすごくよかった。極端な話、ここは自分の街だという勘違いが起きる。その感覚を友だちに話したら『僕が“せきのや”にいるときの感覚も同じだ』と言っていました。一方で、自分が所属していない場所に行きたいって欲求も出てくるんです。その街に自分はいないという心地よさ、その街の人ではないという解放感が味わいたくなるんです。
 
宿泊利用のお礼としてせきのやに運び込まれた、トラフ建築設計事務所が国内の展示会に出品したソファ2階に置かれたソファは、トラフ建築設計事務所が国内の展示会に出品したもの。宿泊利用のお礼としてせきのやに運び込まれた