豊かに暮らすひと

伝統の重さと寛容さを楽しむ、
六代目の柔らかな視点<3/4>
上出 惠悟さん 九谷焼窯元「上出長右衛門窯」六代目

創業140年を迎える九谷焼の窯元・上出長右衛門窯。大学時代を東京で過ごしたのち、石川県に戻って家業の窯元を継いだ六代目・上出惠悟さんは、金沢21世紀美術館に収蔵された髑髏のお菓子壷を始め、パリやコペンハーゲンでの個展など、新しさを感じる九谷焼を提案し続けています。先祖が代々築いてきた歴史にあぐらをかかず、「日本人が感じてきた情緒や生命力を呼び戻す器」を求めて活動を続ける上出さん。しなやかに時代を捉えながら、九谷焼窯元の六代目として自身が今できることを考え続けている上出さんが発する言葉は、今の時代を心豊かに生きるための示唆に満ちていました。

伝統を継ぐとは、一代ずつ創意工夫をしていくこと
 
— 2015年に上出さんが手がけた、九谷焼の転写シールを貼って器に焼き付ける『KUTANI SEAL』シリーズが人気です。この取り組みをした結果、転写をしている同業者からも感謝されたそうですね。九谷焼の新しい側面を見せた、面白い取り組みだと思います。
 
『KUTANI SEAL』は、「九谷焼の転写をバラす」という発想から始まりました。一般的に、伝統工芸の九谷焼と聞いたら、その器が千円で売られていても人が手で描いていると思われています。でも実際は、昭和50年代から転写技術が始まって、手描きではない九谷焼も多いです。その事実があまり一般の人には伝わっていなくて、どちらかというと隠されていた。
 
僕たちは、転写の九谷焼が拡まってくるにつれて、今後手描きを続けていくのが難しくなるかもしれないという危機感がありました。決して転写が悪い訳ではなくて、九谷焼に転写という手法もあるということを知って欲しかったのだけれど、いつまで経っても誰も転写のことをきちんと明らかにしない。あるとき、自分が転写ブランドをつくったら、転写の九谷焼があることをバラし放題だって気がついて、『KUTANI SEAL』をつくったんです。ブランド名にも“シール”とつけて分かりやすいものにして、お客さんには転写と手描きという両方の技術を明確に分けて伝えています。
 
工場併設のショールームに展示されている『YÜ by KUTANI SEAL』@上出 惠悟さん
工場併設のショールームに展示されている『YÜ by KUTANI SEAL』は上出さんの「熊好き」が由来
 
 
— 上出さんはほかにも、スペイン人デザイナーのハイメ・アジョン氏を招聘して『JAIME HAYON×KUTANI CHOEMON』シリーズを発表するなど、伝統工芸のなかでも新しい取り組みをされているように感じます。
 
僕のなかでは、すごく新しいことをやっている感覚はないんです。日本は昔から大陸に憧れがあって、政治や思想、宗教、祭事など、いろんな文化が大陸の影響を受けながら生まれてきました。九谷焼は大陸文化のなかでも明の時代に影響を受けています。上出長右衛門窯の器で『笛吹』シリーズがありますが、これは60年ほど前から描き続けているモチーフで、祖父が明時代の文人を描いた古染付を気に入って描いたのが始まりなんです。それは、新しい取り組みというより、大陸の文化に影響を受けたということ。
 
60年描かれ続けている「笛吹」。様々な振る舞いは上出長右衛門窯の遊び心の原点@上出 惠悟さん
60年描かれ続けている「笛吹」。スケボーをしていたりラジカセを担いだり、その自由な振る舞いは上出長右衛門窯の遊び心の原点
 
 
九谷焼は、江戸の創始から現代までのあいだに様々な存続の危機があったと思います。その危機を救ってきたのは狩野派の画家や京都の画工など、今の時代でいうアーティストやプロデューサーです。九谷焼には、外からやってきた助っ人の手を借りて新しい様式を生み、存続してきた歴史があるんです。だから、今の時代に、僕たちがスペイン人のハイメ・アジョン氏を呼んで、スペインの文化や美意識と九谷の文化が混ざり合った九谷焼が生まれても、それは九谷焼の歴史から見たら決して新しいことではない。
 
今年で上出長右衛門窯は創業140年ですが、僕は140年前をそんなに古い時代のこととは思っていません。「140年も続いていてすごいね」と言われるけれど、140年前の人と僕たちはそんなに違っていなくて、それぞれの時代で一代目から変わらずに続けてきたことと、各代で変化させてきたことが混ざり合っているんです。
 
2010年から展開しているハイメ・アジョンとのコラボレーション@上出 惠悟さん
2010年から展開しているハイメ・アジョンとのコラボレーション。独創的な絵柄と造形を、伝統的な技術と手描きの染付で形に
 

 
— 代々、上出長右衛門窯を継いできた上出さんの祖先が、一代ずつ創意工夫をして窯を続けてきたということですね。
 
僕たちが作っている磁器は、ヨーロッパではかつて『白い金』と言われるほど珍重された時代がありました。磁器の持っている艶や白さの持つ表情が、昔はとても新鮮で貴重だった。でも今では、工業製品としてつくられるようになって、身近に白い器は溢れています。また、青という色も昔は高価で貴重でした。自然界には青いものがあまりないので、青は空や海のように憧れの対象だったけれど、今は化学染料もできて、青い色が昔より身近になった。昔の人は、磁器の白さや青さを、新しくて瑞々しいと感じていたけれど、現代はその感覚が薄れてしまった。でも僕は、改めてその感覚を見直すことができたらいいな、と思っています。
 
上出長右衛門窯は、日本人が持っていた情緒や瑞々しい感覚をもう一度、呼び戻すことを目標にしています。僕たちはその感覚を呼び戻すために、すごく新しいことに取り組みたいわけではなく、使われていない家の窓を開けて、こもった空気を新鮮な空気と入れ替えるくらいの感覚で行いたいんです。
 
2019年9月21日からはYoshimi Arts(大阪)で個展「静物/Still Life」を開催予定@上出 惠悟さん
個人名義での活動も行なっている上出さん。2019年9月21日からはYoshimi Arts(大阪)で個展「静物/Still Life」を開催予定
 
 
interview_石川歩 photograph_イマデラガク(ハプト) edit_佐藤可奈子
取材・撮影:2019年8月