豊かに暮らすひと

伝統の重さと寛容さを楽しむ、
六代目の柔らかな視点<2/4>
上出惠悟さん 九谷焼窯元「上出長右衛門窯」六代目

創業140年を迎える九谷焼の窯元・上出長右衛門窯。大学時代を東京で過ごしたのち、石川県に戻って家業の窯元を継いだ六代目・上出惠悟さんは、金沢21世紀美術館に収蔵された髑髏のお菓子壷を始め、パリやコペンハーゲンでの個展など、新しさを感じる九谷焼を提案し続けています。先祖が代々築いてきた歴史にあぐらをかかず、「日本人が感じてきた情緒や生命力を呼び戻す器」を求めて活動を続ける上出さん。しなやかに時代を捉えながら、九谷焼窯元の六代目として自身が今できることを考え続けている上出さんが発する言葉は、今の時代を心豊かに生きるための示唆に満ちていました。

昔からの振る舞いと、今の暮らしを繋ぐものを残したい
 
— 大学時代を東京で過ごし、東京のエッセンスを吸収した上出さんが、石川に戻って感じていることはありますか?
 
東京発信ではないもの、いわゆる地方という場所で、いろんな可能性が生まれてきているのは確かだと思います。日本のいろんな場所で、伝統の中から発生した価値が、ぽこぽこと出てきている。ただ今は、インターネットでどんなものも買えて、SNSで世界中と繋がって、Wi-Fi環境があればどこでも仕事ができる時代なので、東京も地方もあまり変わらないようにも感じます。「東京はやっぱりいいなあ」ということは、あまりないです。
 
— 近年、地方の価値が見直されてきて、地方に点在する伝統工芸を保護や維持しようという動きが出てきています。伝統工芸を継いだ上出さんは、この潮流をどう思っていますか?
 
地方の伝統工芸がチヤホヤされたりしていますよね。うちの窯もそうなのかな……? ただ、守らないといけないものは弱いですよね。残酷な言い方かもしれないけれど、無くなっていくものを外の人が無理やり残そうとする必要があるのかなと思うことはあります。結局は当事者が、社会のなかで自分たちの可能性を見つけていくしかないと思うんです。そうじゃないと本質を見失いかねないし、それで残ったもの伝統と呼ぶと思うので。
 

型から作るものもあるが、ろくろを使ったり手で形を作る器も多い。継がれてきた技術を土台に、新しいものづくりが生まれていく
 
 
— 上出さんは、その可能性を見つけたのでしょうか?
 
本来、人が手で使う道具を、人の手が作るのは当たり前だと思うのですが、だんだんそれが当たり前ではなくなってきている。非効率的で時間がかかるものかもしれないけど、それを残していくのは、意義のあることだと思っています。それと僕たちが作っている器は、必ずしも使い勝手がいいわけではなくて、使う人やシチュエーションを選びます。一方で、大量生産で作られている器は、素敵なデザインで、多くの人に使いやすくて、盛り付けをしやすいものがたくさんあります。でも僕は、使う人が学んだり成長したりできる道具が必要な気がしているんです。
 
器だけではなくて、売れているもの全体の傾向として、日々の成長とか、発見とか、自分の人生について考えなくてもいいものに溢れている気がする。「このモノを使う生活をするには、どうしたらいいのか?」を考えない生活は楽ちんだけれど、人間ってそれでいいのかなと思うことがあるんです。もちろん、楽なものを使う暮らしは幸せな側面もあるけれど、そうではない考え方や価値観もあるんじゃないかと思っています。
 
— 「使いやすい器が良いもの」という価値観が一般的ですが、一方では違う価値観もあっていいはずですね。
 
たとえば、急須でお茶を淹れて湯呑みで飲むとか、月や花を愛でるとか、そういう私たちが自然にしてきたことを、現代にも残しておかないといけないと思う。月をじっと見たことありますか? ぱっと見上げて「月がきれいだね」という会話はするかもしれないけれど、一時間くらいずっと眺めることはないですよね。今はみんながテレビやスマホなんかで動画を見ているけれど、それが無かった時は夜に外に出て、月をもっと眺めていたと思うんです。そういう昔から人がやってきた振る舞いと、今の僕たちの暮らしをきちんと繋ぐものが、今の時代にも残ってほしいと思う。僕たちの器は、そういう感覚を呼び覚ますようなものを作るという部分で、自分たちの可能性を見出していきたいなと思っています。
 

お茶碗を被った五月人形や頭にらくがきがされた福助など、昔からある文化をユニークに今の暮らしに取り入れるシリーズも展開
 
 
— 上出さんが六代目を継いで13年が経ちました。13年やってみてどんなことを感じていますか?
 
やっぱり大変ですよ(笑)。ひたすら、窯のためにもがいて頑張っている感じです。僕が生まれたときからこの規模の窯があって、家族のような職人がいて、収縮を続けている産業のなかで、自分たちの可能性を見つけていくのは、綺麗事だけでは済まないこともあります。それでも家族がやってきたことだし、仲間がいることは何物にも代え難いものです。だからこそ自分一人だったらやらないことや、やれないことにも挑戦できるし、前を向いて進むことができる。応援してくれる人もいるし、自分が置かれている環境は恵まれていると感じています。
 

使う人とのつながりから得るもの
 
— 上出長右衛門窯では、年に一度、窯を一般開放して、絵付体験や蔵出し市をする『窯まつり』を開催しています。『窯まつり』は、開催するたびに参加者が増えている人気のイベントになりました。
 
一般の方に向けて、上出長右衛門窯を知ってもらうためにやっているのが『窯まつり』です。器だけじゃなくて、作っている現場や作っている人の顔を知ってもらいたくて、毎年スタッフ総出で頑張っています。今年は4,300人のお客さんが来てくれました。『窯まつり』以外にも、東京や大阪で展示会をしてきて、一般の方との繋がりは少しずつですが、できてきているかなと思っています。
 

工場は予約制で見学が可能。年に一度開催している「窯まつり」では、染付や轆轤の体験ができる「⻑右衛門入門」講座も行っている
 
 
— 一般の人と繋がる一方で、料理人や飲食店限定の『薑(はじかみ)会』の開催も始められました。
 
上出長右衛門窯は、日本料理店で使ってもらうための割烹食器を中心に製造してきました。今も残されている製品の多くは、昔から受けてきた料理店の注文をきっかけに生まれたものです。『窯まつり』などで一般の方との繋がりができていくなかで、料理のプロの方との取り組みをもう一度やりたいなと思って始めたのが『薑会』です。今年が初めての開催で、僕の中では“第ゼロ回”というイメージです。昔のように規模の大きな料亭は減ってきているけど、そのぶん、今は少人数のカウンターで楽しむ割烹が人気になってきているし、いろんなスタイルで料理を提供するお店も増えてきている。割烹に囚われず、現代の料理店とコミュニティをつくるのが『薑会』の一つの目的です。
 
— 一般の人と料理のプロ、両方とコミュニケーションをとることが、上出長右衛門窯が存続していく術になるということでしょうか?
 
まずは、料理人さんたちが料理や器に対してどういう風に考えているのか知りたくて『薑会』をやるというのが、本当のところです。最近、僕は、パッケージデザインやイラストを描く仕事が増えているのですが、その仕事をするときは、その商品の成り立ちや思いについて、相手のことをよく考えます。
 
上出長右衛門窯の基本になっている割烹料理店のための器も、実際に料理人やお店の方とコミュニケーションをとって、器の使われ方や、いま必要な器の形や考え方など、今まで僕が知らなかったことを知りたい。そうすれば、今まで僕が考えてもみなかった発想で器が生まれるだろうし、そういう経験はそのまま窯に蓄積されていくんです。
 

窯で働く人は製造と企画と経理を合わせて20数名。最近、上出さんの大学時代の同級生が入社し、企画部門が強化されたという
 
 
— その蓄積が、上出長右衛門窯が作る器を新たにしていくということでしょうか。
 
少しずつ、新しくなっていったら良いなと思っています。言うまでもなく食は文化で、人が培ってきた知恵が詰まっています。食の分野と僕たちが再度強いコネクションを持つことで、上出長右衛門窯の器づくりに反映されることを期待しています。割烹食器を作ってきたことは大事にしたいですが、日本料理に限っているわけでないですから。