くらし談義

有機的組織ロフトワークから学ぶ個人が活きる働き方<3/4>
林千晶さん 株式会社ロフトワーク共同創業者・代表取締役

2000年に株式会社ロフトワークを創業し、クリエイターをつなぐインターネットプラットフォームを構築した林千晶さん。現在は、Webデザイン・ビジネスデザイン・コミュニティデザイン・空間デザインなど、年間300件以上のプロジェクトを手がけ、クリエイティブの力で成功に導いています。さらに『株式会社飛騨の森でクマは踊る』では森林再生と地域産業の活性化に携わるなど、次々と社会的インパクトのある事業を展開しながらも、「自分が好きなことをしているのであまり仕事感覚がない」と話す林さんに、個人が活きる働き方、少し未来の仕事観についてお話を聞きました。

朝の1時間を料理に集中して、1日をスタートする
 

—林さんは、ロフトワーク以外にも『株式会社飛騨の森でクマは踊る(以下、ヒダクマ)』の会長職や、MITの所長補佐、経産省の分科会委員などたくさんの役職を担っていました。めまぐるしい日々を過ごしていると思いますが、気分を切り替えるためにやっている暮らしのルーティンはありますか?
 
唯一やっているのは料理です。もともと料理は苦手で大嫌いでしたが(笑)、子どもができて実感したのは、料理が子どもをつくるということです。子どもの“頭”を学校で作ってくれるとして、子どもの体そのものは家族が食べさせる料理でできている。人間は毎日、考えることがたくさんあって、未来の悩みも絶えなくて、“動物”じゃないように振舞っているけれど、実は、子どもが育っていくのはとても動物的なことだと気がつきました。それで料理を作るようになったんです。特に、子どもが中学・高校のときはお弁当だったので、朝4時30分に起きて、子どもが部活に行くまでの1時間は料理だけに集中する、という暮らし方をしていました。
 
—料理に集中する時間が忙しい毎日をリセットしてくれた、ということですか?
 
リセットというよりも1日の始まりを大切にしていました。私は料理をするなら、きちんと出汁からとりたいと思うんです。それは、味へのこだわりというよりも、自分自身が『朝から手抜きをしてしまった』と思いたくないから。『朝からきちんと出汁をとって料理をした』と思って1日をスタートしたほうが、その日を気持ちの良いムードで過ごせるんです。
 

今年3月まで4時30分に起きて料理をしていたという林さん。「いろんな料理本を見て楽しみながら料理をしていました」
 
 
「自分の居場所」を自分で選ぶ時代に
 
—林さんには、そもそもお仕事とプライベートの境目がありますか?
 
基本的には、仕事とプライベートは分けていません。なぜなら、自分が好きなことをしているのであまり仕事感覚がないんです。『次は何に挑戦しようかな?』と考え始めると、そこからプロジェクトがどんどん広がって仕事になる。面白い遊びからプロジェクトが生まれることも、たくさんあります。“ここからは仕事”という線引きがないので、面白そうなイベントがあると土日も関係なく出かけていました。ふと気がついたら休みなく動いていて、今年の1月に倒れてしまったんです。
 
倒れたのを機に、仕事を受けるときは『自分が本当にやりたいことか?』『本当にやる意味があることか?』を考えるようにしました。今では、これまでと比べて手がける数は少なくなっても、好きなことで成果を出すために5年・10年かけても、丁寧にやっていこうと思っています。
 
—そんななかで、林さんが選び取ったお仕事はなんですか?
 
いまやりたいことは二つあって、一つは再開発中の渋谷に新しくできる「渋谷スクランブルスクエア」の15階に誕生する未来共創拠点、SHIBUYAQWS(渋谷キューズ)の空間づくりです。私たちロフトワークが、ロフトワークという概念を超えて交わる、より大きな変化を起こすための場所で、大切なコミュニティになると思っています。こんなこと言ったら怒られちゃうけれど、QWSができたらロフトワークは無くなってもいいかもって思うくらい(笑)。それくらいに『結局、会社は個人事業主の集合体に過ぎないよね』と感じられるような、新しい価値が生み出される場所になると思うし、そうなってこそ『ロフトワークは良い会社だね』と感じられると思うんです。
 
もう一つはヒダクマです。飛騨の森には、世界のマーケットも視野に入れられる力があります。今は、一部の木材を使って家具を作っていますが、実は切られた木のほとんどはチップになっている。これを、日本の木工技術とデジタルファブリケーションを融合させることで新しい力を生み出し、もっと森の木を活用していきたい。飛騨の森に小さな経済がまわりはじめたら、適切な間伐をして、育った木をものづくりに使い、空いた場所に植樹をしていくことで飛騨の森はもっと魅力的になるはずです。森が豊かになる循環が実現できれば、日本の他の森にもヒダクマのような会社をつくり、総合的に日本中の森が豊かになればいいなと思っています。
 

窓際のカウンターもヒダクマのオリジナル。立って作業しやすいように絶妙な角度で手前に傾斜させている
 

—渋谷再開発エリアで空間づくりをすることと、飛騨の森でクリエイティブの力を使って新しい価値を生み出そうとすること……。場所もつくり出すものも一見ばらばらに見えますが、実際には好きなこととやるべきことを自然に同居させています。林さんのような働き方に憧れる読者は多いと思いますが、林さんはこれからの働き方はどうなっていくと思いますか?
 
働き方が多様になっていくのは事実だと思います。新卒で大企業に入って9〜17時で働くという方法もあれば、ベンチャーを選んだり、eコマースを使って一人で商売をするなど、働く場所の幅が広がっていく。働き方のスタンスも、会社が好きで会社を大きくするために働く人もいれば、個人がより立っていくような働き方も増えると思います。いずれにしても、“自分で仕事を選ぶ”という世界になると思うので、自分が“どう生きるか”によって働き方はずいぶん変わるでしょう。ますます自己責任が問われる厳しい世界とも言えるけれど、自分で自分の未来を選ぶ「超ダイバーシティ」な社会に移っていく。改めて、どう生きたいのかが問われるのです。
 

初めての企画展『ロフトワーク展 01 - Where Does Creativity Come From?』で、ディレクターの重松佑さんが問いかけた言葉
 
 
interview_石川歩 photograph_橋本裕貴 edit_佐藤可奈子
一部写真提供_Loftwork 取材・撮影_2019年4月