くらし談義

有機的組織ロフトワークから学ぶ個人が活きる働き方<2/4>
林千晶さん 株式会社ロフトワーク共同創業者・代表取締役

2000年に株式会社ロフトワークを創業し、クリエイターをつなぐインターネットプラットフォームを構築した林千晶さん。現在は、Webデザイン・ビジネスデザイン・コミュニティデザイン・空間デザインなど、年間300件以上のプロジェクトを手がけ、クリエイティブの力で成功に導いています。さらに『株式会社飛騨の森でクマは踊る』では森林再生と地域産業の活性化に携わるなど、次々と社会的インパクトのある事業を展開しながらも、「自分が好きなことをしているのであまり仕事感覚がない」と話す林さんに、個人が活きる働き方、少し未来の仕事観についてお話を聞きました。

ロフトワーク的「働くとは何か」の答えは?
 
—3階のプロジェクトスペースが完成して、次にリノベーションしたスペースが8・9階の「執務エリア」ですね。この2フロアはどのようなコンセプトでつくられたのですか?
 
3階の『COOOP3』ができたとき、『いつも働いている空間も、固定席である必要は無いのでは?』という考え方になって、自然な流れでフリーアドレスになりました。8・9階の執務エリアは『そもそも、働くとは何か?』という問いに対するロフトワークなりの回答でもあります。
 
階層構造をつくり、ピラミッド型の組織図がしっかり決まっているような働き方は、ロフトワークとしては古い価値観になっています。今のロフトワークは、いわゆる組織図ではなく、人と人が有機的に繋がって得意分野を生かしてイベントやマーケティングをするという働き方です。全体はロフトワークというかたちや側面で一時的に括られているけれど、ロフトワークの世界では、その人自身は個人主体で世の中にアプローチをしていく働き方になっている。ロフトワークという形で活動はするけれど、あくまでも自分の人生は自分のもので、その一部の時間をロフトワークに使っている、という価値観です。
 

8・9階の『執務エリア』はフリーアドレス。その日に必要とし合う人たちがテーブルに集まって仕事を進められる
 

—極端にいえば、個人事業主の集団ですね。ただ、会社という括りのなかにいる安心・安定感を求める人もいると思います。
 
もちろん、ロフトワークだけでやりたい人は大歓迎です。それは個人が自分の判断で決めれば良いこと。ロフトワークの仕事は、ロフトワークのプロジェクトを成功させるために社員の力を貸してくださいというのではなく、個人もしくは個人のグループがいかに成長し、いかに仕事にやりがいを持つかというために組織がつくられている。ロフトワークは個人を後ろから支えるものであって、前に出てくるものではないんです。会社がないと自分は生きていけないということではなく、ロフトワークという会社で働くと、自分が主体になって会社とうまく付き合っていく人間になっていくのではないか……。最近はそう思っていて、それは良いことだと感じています。
 
—会社という枠を超えて個人が成長していくと、必然的に会社を辞める選択をする人も増えそうです。
 
確かに毎年、一定数の社員がロフトワークという支えから卒業して、会社を辞めていきます。私は、会社よりも個人の成長が大切だという思いはありますが、それでも社員が辞めるのは嫌なの(笑)。だって、“人がいなくなる”ということは寂しいでしょう? ただ、社員を辞めてもロフトワークで手がけているプロジェクトは続けてくれていたりもする。新しいロフトワークとの関係が築かれていくのだなと思います。
 

執務エリアの中央に置かれた曲線テーブルもフリーアドレス用。プロジェクトメンバーで円になって仕事ができる
 
 
微生物レベルで、人に会いたい!
 
—ロフトワークが執務室をフリーアドレスにして得られたメリットはなんですか?
 
たとえば、広報がAというプロジェクトのPRをしたいときに、Aプロジェクトのディレクターの隣に座って、プロジェクトの進捗について知る。次の日は、Aを手がけるデザイナーの隣に座って話を聞くなど、話をしたい人は毎日変わりますよね? それであれば、その日に必要としている人同士が隣に座れば良い。ロフトワークには社長室が無くて、私もフリーアドレスです。私は、しばらく話をしていない人の隣に座って、『ねえねえ、最近どうなの?』と聞くのが好きですね(笑)。
 
—フリーアドレスの執務スペースをつくるにあたって、工夫したポイントはどこですか?
 
みんなの好きなものが、好き勝手に入る空間になっています。私と共同創業者の諏訪の好みで、オフィスのいろんな場所にアート作品を置いているし、壁に書いてある文字は、シニアディレクターの重松佑くんが購入したものです。誰でも、その空間をハックしたかったらできる、そんな空間になっています。
 
一方で個人を仕切らないということは、常に仲間からの視線を感じるということです。執務スペースには、ある程度の緊張感が必要だと思っているので、オフィスは仲間に自分が頑張ったところを見せる、褒めてもらえるように振る舞うべきだというプレッシャーを感じる空間になっています。自分が一番かっこいいところを仲間に見せ合いたくなるような、そんな工夫をしています。
 

ロフトワーク創業初期からオフィスに飾られている山本努さんの作品。業務中にアート作品に目を向けられる豊かな空間
 

—フリーアドレスと同じレイヤーで議論になるのが、在宅勤務です。ロフトワークは、今のところ出社義務がありますが、林さんは在宅勤務について、どう考えていますか?
 
ちょうどいま検討中で、週に何日かのコアタイム以外は別の場所で働いてもOKにするかもしれません。ただ、顔と顔を合わせることの大切さはすごく感じているので、完全に在宅勤務に移行することはないと思います。スカイプ等を使えば、お互いが話している雰囲気は伝わりますが、パソコンの画面は二次元で奥行きがないでしょう? 人は、対面で会話するときに奥行きを含めて相手を見ていて、その奥行きが会話に与える影響はあると思うのです。
 
たとえば、人はどうしてキスをするのだろうと考えたときに、“微生物の交換”と考えたらどう? 人は微生物をたくさん持っていて、自分と相手の微生物同士が人間をコントロールしているとすると、やはり実際に顔を見ないとわからないことがある。フィジカルに会うということが持っている豊かさは、画面では伝わらないと思うんです。
 

ビールメーカーとの社会実験でビアサーバーも設置している。アルコールを入れた対面コミュニケーションもアリという考え方