豊かに暮らすひと

ミュージシャンのこだわりから見る日々の幸せの見つけかた<3/4>
門田“JAW”晃介さん サックスプレイヤー

ジャズインストゥルメンタルバンド『PE'Z』のテナーサックスプレイヤーとして、日本のみならず海外でも高い評価を受け、国内外の大舞台でライブをしてきた門田“JAW”晃介さん。PE'Z解散後は、新バンドの結成やサックス独奏ツアーのほか、オリジナルのコーヒー豆やサックスストラップのプロダクトデザインを手がけるなど、ミュージシャンとしての活動以外にも活躍の場を広げています。人を魅了する音楽をつくり、演奏するために門田さんが心がけていることとは何か? ひとつの道を追求してきたミュージシャンの言葉から、私たちが豊かに暮らすためのヒントが見えてきました。

良い曲づくりは、良い暮らしの延長にある
 
—私たちからすると、ミュージシャンの暮らしは謎に包まれているのですが(笑)、門田さんはどんな生活をしているのですか?
 
すごく波のある生活です。ツアー期間はひたすら移動の繰り返しで、ツアーが終わると地味で(笑)、ずっと家にいて練習と創作をしています。どちらが良いも悪いもありませんが、振れ幅は大きいですね。
 
—仕事とはいえ、ツアーで全国を回っているときは旅の気分になりますか?
 
日程と場所しだいです。お客さんが集まりやすいのは都市の駅から近い会場ですが、全国ツアーといってもそういう会場ばかりだと、新幹線の駅から会場までは似たような都市の風景が続いています。そんなツアーだと、「今は何県にいるんだっけ?」「これからどこに行くんだっけ?」という感覚になります。
 
ソロツアーの『JAW DROP TOUR』はある意味集客を度外視しているようなところもあって(笑)、人が来にくいところも会場にしています。佐賀県の嬉野では、電車の最寄り駅がないお茶畑の街の中の老舗温泉旅館でライブをしたのですが、お客さんは、主要都市から1日数本出ているバスを乗り過ごすと会場にたどり着けないというドキドキ体験がある(笑)。会場に行くまでの体験も、楽しんでほしいです。
 
—そういう強烈な体験はお客さんの心にもずっと残る思い出になりますね。なによりも、門田さんが楽しそうで羨ましいです!
 
ソロツアーはステージをつくるのがひとりなので大変ですが、独奏の音楽には独特の良さがあるので、僕自身も楽しんでいます。地方の美味しいものを食べたり、地元の人と出会ったりと、その土地のエネルギーをもらっています。
 
 
コーヒーでスイッチをONにする
 
—門田さんは、どんなふうに曲を創作していくのですか?
 

曲の作り方はいろいろあると思いますが、僕は、朝のコーヒーを淹れて、犬の散歩をして、サックスの練習をして、食事をして眠るといった普段の暮らしの延長から、アイデアの核を発見することが多いです。その核に、僕の経験や聴いてきた音楽、会話の中で心の引き出しに入れておいた言葉といったものをクリエイトして枝葉をつけていくと、良い曲になる感覚がある。核部分にモチーフがあって、その核を自分自身がどれだけ大切にしているか、自分なりのインスピレーションが含まれているのかどうかを問い続けます。その核に自分の気持ちが寄り添っているほど、どんなふうに枝葉を展開しても良い曲になるんです。
 
—門田さんの場合は、その“核”が、日常生活から発想されているということですね。たとえばライブの直後は興奮状態にあるでしょうし、暮らしのなかでストレスが溜まることもあると思います。そんなときは、どうやって気持ちをリセットするのですか?
 
普段の生活で、感性のセンサーを正常に動かすことを大切にしているので、日々のルーチンを意識して回すようにしています。自分で決めた手順でコーヒーを淹れるのもルーチンのひとつで、淹れたコーヒーが美味しくないときは、どこかで自分のバランスが崩れていると感じます。そういうときは、長く体を動かすなど、心と体をリセットする時間を持つようにしています。
 

コーヒーケトルの形の意味やお湯を注ぐ際の違いなどを語る門田さん。喫茶店でバイトをしたことがコーヒーにハマったきっかけ
 
 
—門田さんは、かなりのコーヒーマニアとお聞きしています。コーヒーに目覚めたのはいつですか?
 
最初に飲み始めたのは高校生です。いわゆる“中二病”のはじまりですね(笑)。コーヒー豆やポットにこだわっていて、誕生日には、コーヒーミルとポットを買ってもらいました。家で父親が豆を挽いてコーヒーを淹れていたし、近所の喫茶店のマスターがコーヒーを淹れる仕草がかっこよくて影響されました。
 
—家では必ずコーヒーを飲みますか?お気に入りのコーヒーはなんでしょう?
 
お気に入りは、野性味を感じるエチオピアの豆です。エチオピアはコーヒー発祥の地と言われていて、飲んでいて原始的な味がするというか、最近よくある洗練されたコーヒーとは真逆の豆という感じが好きでよく飲んでいます。
 
僕にとってコーヒーを淹れる動作は“儀式”になっていまして(笑)、仕事をするときは必ず家でコーヒーを淹れて飲みます。逆に、「今日は1日休もう」という日は、コーヒーは飲みません。僕のなかでは、コーヒーを淹れるのは仕事感覚になっているんです。
 
—門田さんは、コーヒー好きが高じて『JAW BLEND COFFEE』というオリジナルのコーヒー豆も販売されています。この豆が好評で今年も販売されるということですが、このままいくと、いつかこだわりのコーヒーを飲ませる“門田カフェ”をオープンしていそうです(笑)。
 

そのときは、古民家をリノベーションしましょうね(笑)。僕は何かを好きになると、行き着くところまでいかないと気が済まないんです。コーヒー豆の販売についても、そこで商売をしようとは思っていなかったけれど、美味しい豆にこだわった結果として、周りの人たちにも飲んで欲しいというところから始まっています。
 
—ひとつのことを追求してきた人は、もうひとつの道を見つけても突き詰める速度が早いと思うんです。それだけ集中して物事に取り組めるということだと思うのですが、今日はお話を聞いて、とても豊かな人生を送っていらっしゃるなと羨ましくなりました!
 

 
interview_ 石川歩 photograph_ 古末拓也 edit_佐藤可奈子
取材・撮影:2019年2月