豊かに暮らすひと

ミュージシャンのこだわりから見る日々の幸せの見つけかた<2/4>
門田“JAW”晃介さん サックスプレイヤー

ジャズインストゥルメンタルバンド『PE'Z』のテナーサックスプレイヤーとして、日本のみならず海外でも高い評価を受け、国内外の大舞台でライブをしてきた門田“JAW”晃介さん。PE'Z解散後は、新バンドの結成やサックス独奏ツアーのほか、オリジナルのコーヒー豆やサックスストラップのプロダクトデザインを手がけるなど、ミュージシャンとしての活動以外にも活躍の場を広げています。人を魅了する音楽をつくり、演奏するために門田さんが心がけていることとは何か? ひとつの道を追求してきたミュージシャンの言葉から、私たちが豊かに暮らすためのヒントが見えてきました。

自分の音楽で“そこでしか体験できない空間”をつくる
 
—PE'Z時代は、海外公演や野外フェスなど、何万人という観客の前で演奏されてきました。ソロになってからは、カフェやリノベーションされたスペースで演奏する機会も多いそうですね。
 
何万人というお客さんを集めるライブでは、その環境じゃないと絶対に出てこない音や雰囲気がありますね。ひとりでやろうと思って実現できるものではなく、まずはお客さんが数万人集まらないといけないし、収容する場所も聴かせる設備も必要で、そこでステージに立つためには、努力だけでなく運や巡り合わせが必要です。大きなステージに立つと、何万人という観客が出す“気”のようなものがステージまで伝わってくるから、バンドもその気持ちの大きさと同じ熱量の音楽を返していく。そういう音楽をやっているときの幸福感やお祭り感を味わえたのは、とてもラッキーでした。
 
一方で、たとえば、弾き語りで何万人ものお客さんを相手にするミュージシャンがいるでしょう? そういう人はきっと、カフェで5人のお客さんを相手にしても良い空間をつくると思うんです。言葉のない楽器だけの演奏では同じようにはいかないですが、僕のミュージシャンとしての理想像はそういうイメージに近いものです。
 
—数万人の前で演奏するという普通の人では味わえない経験をしてきたから、真逆にある価値も大事にしているのですね。
 
お祭りの非日常感は気持ちが高揚して楽しめるけれど、普通の暮らしをゆるやかに送るという日常的な幸せもありますよね。僕は、小さな空間でもいいので、その場所のその時間でしか成し得ない、暮らしで言えば、日常的な幸せに当たるような空間を味わえるライブも大事にしています。それに、音楽という視点だけで見たら、たとえば僕のことを知らない人が、僕が演奏しているカフェの前をたまたま通りかかって、その音楽を聞いて少し気分が上がって家に帰れたら、それは純粋に僕の音楽に惹きつけられたのだと言える。それは、「○○バンドの○○さん」という肩書きがないところで勝負できている、と感じられるんです。
 
ひとりのミュージシャンとして考えるのは、人生のシチュエーションによって、どこでライブをやりたいのかという欲求は変わるということ。今の僕は、お客さんとの距離が近い場所で演奏する機会に恵まれていて、技術レベルを含めてそういった空間をつくり上げるチャレンジができる。それは僕にとって、挑戦しがいのあることです。
 
「演者と観客の距離が近いライブは居心地のいい緊張感がある」と話す門田“JAW”晃介さん@モリスケ+横森珈琲
『モリスケ+横森珈琲』で行われたライブの様子。「演者と観客の距離が近いライブは居心地のいい緊張感がある」と門田さん
 
 
—今年の門田さんは、『BARB』の活動以外に、七夕と年末に開催する『JAW meets PIANOMAN』のライブや、ソロツアー『JAW DROP TOUR』も控えています。ひとつひとつのライブによってセッションする相手も場所も違うという状況で、門田さんが届けたいものはなんですか?
 
どんなライブでも考えているのは、お客さんに良い空気と良いバイブレーションを感じて帰ってもらいたいということです。基本的には場所やセッションの相手が違ってもこの考え方は変わりません。もちろんライブは音楽が軸ですが、空間そのものの魅力や、食事、ドリンクから、そのバイブレーションを感じても良いと思うんです。
 
—近年の技術革新で、音楽が鳴っている場所にいなくてもライブを体感できるようになりました。音楽体験の幅が広がっているように感じます。
 
最近のライブを見ていて思うのは、大きな会場でステージから遠い席の人は、スクリーンに映し出されたライブを見ていることが多いということ。会場技術が進んでいると、そのスクリーンをARで観れて、ライブ会場にいながら映像作品を観ている。さらにそれをテレビで観ている人もいて、ライブがオンタイムで作品になっていたりします。しかし、ミュージシャンが至近距離で出す生音や空間に音が響いていくといった繊細な体験は、電波にして届けられるものではない。そういう流れのなかでライブがつくる空間が貴重になっていくのは必然だし、ライブ体験に取って代わるものはないと思うんです。
 
以前、知り合いのミュージシャンに「ジョーくんの音には気配がある」と言われたことがあって、それがとても嬉しかった。僕が届けたいのは、僕とお客さんがつくりだす空間の“気配”であり、それを感じ取ってもらえるような体験を、ライブのなかにひとつでも多く残していきたいです。
 
かつて住んでいた三鷹は、門田“JAW”晃介さんにとってなじみ深い街@リノア三鷹
インタビューは『リノア三鷹』で行われた。かつて住んでいたこともあるという三鷹は、門田さんと馴染みの深い街