くらし談義

暮らしを楽しむことから始まる、グリーンとの気軽な付き合い方<3/4>
齊藤太一さん 造園家、クリエイティブディレクター(SOLSO代表)

植物のスペシャリストである齊藤太一さんは、現在のグリーンのトレンドを語るのに欠かせない人物。川崎の『SOLSO FARM』やライフスタイルのなかのグリーンを提案する『BIOTOP NURSERIES』などのショップや、リビタが手掛けたまるごとリノベーションマンション『リノア目黒大橋』やシェアオフィス『12SHINJUKU』など、植物と建物が調和した住宅・商業施設などのデザインを通して、気軽におしゃれにグリーンに親しむ提案をしています。2018年秋には、南青山に「都会の真ん中にある新しいパークライフスタイル」がコンセプトのショップ『SOLSO PARK』をオープン。植物のある暮らしの始め方、住まいとの関係を聞きました。

グリーンとの暮らしは、難しいことじゃない。
 
―グリーンはインテリアでもあるけれど、あくまで生きもの。変化に気づける毎日でありたいですね
 
やっぱり、植木鉢ひとつに水をやれない生活って何かしらストレスがあるんだと思います。時間があまりになさすぎるのか、気持ちに余裕がないのか。たとえ知識がなくても、目の前の植物が枯れたら分かるじゃないですか。それに気づかないということは、それ以外の小さいもの、たとえば部屋の汚れにも気づかないということ。「部屋の乱れは心の乱れ」と言うけど、そういうところが絶対にあると思う。
 
僕だって枯らすことはありますが、少ないですよ。それはプロだからじゃないんです。僕も自宅のグリーンの管理なんて適当ですよ(笑)。気づいた時に水をやってるだけ。けれどその気づきは、毎日ご飯を食べて寝るルーティンの中でも生活を楽しんでいたり、思いやりや思い入れがあったり、そういう中に生まれるものじゃないでしょうか。


人気のハンギングプランツも一つひとつフォルムが違って楽しい

 
 
―育てる側の気持ちも大切ですね。家と同じように、買った時が完成でなく手入れをしながら付き合っていくような。
 
そうですね。僕の感覚ですけれど、高度経済成長期を生きた人は、家でも庭でも「プロに完璧に作ってもらって、メンテナンスも誰かに依頼する」という考え方が多い。意外と自分の手で何もやらないんですよ。けれど僕らの世代は自分でインテリアを楽しんだり家具をメンテナンスしたり、生活自体が趣味の一部になっている。暮らしを楽しむことは昔のように一部の人のステータスではなく、ごく普通のことですよね。
 
今は好きなことを見つけやすい時代で、例えば料理好きならクックパッドで調べて深掘りできる。調べるうちに「鍋や食器もこんなかわいいものがあるんだ」「調味料はこれがいいんだな」という具合に、知識が増えればレベルも上がるし楽しみも増えますよね。でもグリーンのことは人に聞いてやってもらうの? それは違うでしょう、と。
 
グリーンも料理も、同じようにライフスタイルの一部。自分で調べて「このかわいい鉢に植えたい」から始まるのもいいと思うし、「じゃあ植え替えってどうやるの?」と思ったら調べてやってみる。それがおもしろいと思うんですよね。

鉢はほとんどがSOLSOオリジナル。ファッション感覚で植物と組み合わせるのが楽しい
 
 
―齊藤さんのご自宅もたくさんの植物に囲まれているそうですが、自分で世話をするのは大変ではないですか?
 
全然、余裕です(笑)。水やりとか庭の掃き掃除とか、たった30分ぐらいじゃないですか。普段の休日なんて、買い物に行くか家にいるかぐらいでしょう。植物の世話でもしなかったら、外に出ることもないですよね。
 
―ご自宅を建てるにあたって大切にしたことは?
 
敷地は都内の住宅街にある58坪の敷地で、特別広いわけではありません。もちろんまわりにも普通の住宅が立っています。そういった日本のありふれた住環境で、落水荘のような家をどこまで表現できるか根本から考えました。
 
建物の設計は、植物との関係を根本から考えられてニュートラルに物事を見る人に頼みたいと思っていました。そんな時に建築家の田根 剛さんに出会って、「この人ならゼロから考えてくれるのかもしれない」と感じて。一緒に考えながら、3年半ぐらいかな。時間をかけて作ったんです。
 
設計段階から室内と植物の関係を考えて、すべての窓から緑が見えるようにしています。立地はごく普通ですが、借景を取り込んだり緑の奥行きを計算したり、窓の位置やそこから見える景色、すべてを考えて建築と融合させた。根本からちゃんと考えれば、日本の住宅事情でもここまでできるということを表現したかったんですよね。


食べられる果樹類のコーナー。収穫は植物を育てる醍醐味の一つで、家族の楽しみにもなる
 

 
―ご自身もお子さんがいらっしゃいますが、植物と触れ合う「緑育」も大切にしていますね。
 

子どものうちは、植物が身近にある環境が絶対にいいと思います。そうは言っても、昔なら当たり前にあったような裏山は今の都市にはない。じゃあ今の子どもたちにとっての裏山ってどこ? と考えたら、近所の公園や家の庭、マンションのバルコニーなんですよ。それが身近に感じられる自然の一つで、大人は大切にしてあげなきゃいけない。
 
現代の子どもたちにとっては植物を育てること、植物に触れることイコール「自然に触れる」ということなんです。例えば実がなる木を育てれば家族で収穫も楽しめるし、花が咲くものもわくわくしますよね。季節を感じられる植物がおすすめですが、オジギソウや食虫植物もおもしろいし、なんでもいいと思うんです。
 
小さな場所でも植物に触れる機会がなくなってしまったら、どこで自然に触れるの? と思う。もちろん、たまに遠くの山や田舎に出かけるのも大切だしいい思い出になると思うけれど、日常の中でどれだけ五感を刺激する経験があるか、感じられる場所があるかというのは、すごく大事なことだと思います。

SOLSO PARK
東京都港区南青山1-12-13
TEL : 03-6812-9770
http://solsopark.com
interview_石井妙子  photograph_ 木村武司 一部写真提供_SOLSO
取材・撮影:2018年10月