くらし談義

暮らしを楽しむことから始まる、グリーンとの気軽な付き合い方<2/4>
齊藤太一さん 造園家、クリエイティブディレクター(SOLSO代表)

植物のスペシャリストである齊藤太一さんは、現在のグリーンのトレンドを語るのに欠かせない人物。川崎の『SOLSO FARM』やライフスタイルのなかのグリーンを提案する『BIOTOP NURSERIES』などのショップや、リビタが手掛けたまるごとリノベーションマンション『リノア目黒大橋』やシェアオフィス『12SHINJUKU』など、植物と建物が調和した住宅・商業施設などのデザインを通して、気軽におしゃれにグリーンに親しむ提案をしています。2018年秋には、南青山に「都会の真ん中にある新しいパークライフスタイル」がコンセプトのショップ『SOLSO PARK』をオープン。植物のある暮らしの始め方、住まいとの関係を聞きました。

自分で探して調べるのが楽しいから、丁寧なアドバイスはしない
 
―高校生のうちから、現在につながるビジョンを見つけていたんですね。
 
高校に通いながら「建築と融合する植物」を提案できる人を目指して独学で勉強して、庭づくりの仕事も変わらず個人で受けていました。早々に車の免許を取って、授業が終わったら急いで植木の買い付けに行ったりして。授業中に図面を書いたりしてたら留年しちゃって、高校に4年行きましたけどね(笑)。
 
仕事は順調に増えて、東京にも買い付けに行くようになりました。その時に青山の生花店の社長に出会って、高校卒業後すぐに上京してそこに就職したんです。所属はグリーン事業部。インドアグリーンという言葉が出始めた時代でしたね。


都心型ショップの『SOLSO PARK』には、気軽に買えるコンパクトな鉢植えが充実

 
 
―その時も、建築と植物のバランスは大切にしていたんですか?
 
当時はまだ「植物は空間を作った後に考えるもの」という感覚が一般的でした。建物ができて内装工事が終わってから「くっつけるもの」。庭や観葉植物にお金をかける人も、今ほど多くはなかった。でも青山エリアはハイクラスの人が多いから植物にこだわりたい人もいて、いろいろな仕事をさせてもらいました。
 
でもやっぱり「植物が後づけじゃダメだ」という思いが強くなって、「建物の設計段階から計画に入らせてほしい」と交渉するようになりました。そうするとやっぱり、クオリティが高いものができるんです。それは今も変わらなくて、設計段階から入らない仕事はないですね。
 
そうやって仕事をする中で、だんだん植物は表層的なスタイルやかっこいいだけのものじゃなくて、もっと根本的なことなんじゃないかと感じるようになりました。地球温暖化も問題になっていたから、環境と植物についても考えるようになって。お金をかけてかっこいい植物を入れればいい、という考え方は「ちょっと違うな」と思うようになっていったんです。
 
 
―植物と人の関係から変えていきたい、と思うようになったんですね。
 
当時の仕事もそうでしたが、日本では昔から「庭は庭師や造園家に頼むもの」という意識が強くて、植物の世話は大変なものだと思われていました。でも仕事で世界を回っていると、パリだとか文化が成熟した街では植物は日常的に触れ合う存在なんです。朝食を食べるような感覚で水やりしたり、まったく感覚が違う。
 
そういう日本の状況は変えなきゃいけないし、自然のあり方も変えなければ地球環境も終わってしまう。かと言ってそれを押しつけがましく言っても伝わらないですよね。だからライフスタイルに植物を取り込む提案を通してグリーンを浸透させていこうと、独立してSOLSOブランドを立ち上げました。

ブランコや小屋のようなラックなど多彩なコーディネートでグリーンの楽しさを教えてくれる
 

 
―その思いから、雑貨やアパレルと組み合わせて提案するショップを展開していくんですね。
 
グリーンを取り入れてもらうには、楽しく、おもしろがりながら植物が手に入る場所があれば伝わるはず。そこで最初に作ったのが、自由が丘のライフスタイルショップ『Today’s Special』のインショップです。それから直営店『BIOTOP NURSERIES』も立ち上げました。ファッションや雑貨とグリーンを組み合わせて、かわいらしく表現したら思った以上に評判が良くて。だんだん、住まいにグリーンを素敵に取り入れる人が増えてきました。
 
そうするとマンションなどに置く植物のコーディネートも相談されるようになったんですが、僕らがやってしまうと従来の「植物はプロに頼む特別なこと」という文化に戻ってしまう。だから僕らは、すでにある空間でのコーディネートは一切やりません。もちろん、選ぶアドバイスはしますけれど。
 
―植物を選ぶ時は「自分でも育てられるか」が心配で、プロに相談しないと不安ですが……。
 
自分が好きなものを選んだ方が絶対に楽しいですよ! これだけ情報があふれている時代だからピンタレストでもなんでも好きなものを探せるし、それが楽しいじゃないですか。育て方だって、今はスマホで十分調べられますよね。
 
だから僕たちのショップでは、お客さんに手取り足取りの提案はしていません。植物を長く育ててもらいたいし楽しんでもらいたいからこそ、空間で実際に体感しながら好きなものを探してもらって、育て方も自分で調べてほしいんです。
 
―育て方も自分で調べる方がいいんですか?
 
自分で調べるってすごく大事ですよ。人に言われるがままインプットしたことって、絶対やらなくなるんです。忘れちゃうし。自分で調べて「そうなんだ、こういう風にやるんだ」って見たものの方が絶対覚えるし、続くんです。
 
植物の育て方って答えがないんです。置く環境によっても違う。たとえばショップで「2週間に1回水やってください」とアドバイスしたとして、「言われた通り2週間に1回水やったんですけど枯れちゃいました」と言われても、「いやいや、生きてますから」と(笑)。植物の体調は日々見ないといけないし、「おかしいな」と思ったら自分でスマホで調べてみることもすごく重要です。
 
 「ホスピタリティをめちゃくちゃ考えているからこそ、手とり足とり教えることはしない」と話す
 
 
―そうは言っても、自己流で育てると枯らすのではと心配です。
 
それで枯らしてもしょうがない。枯らさないと分からないこともありますし。そもそも植物はもともと外で生きていたものなんだから、家の中に置いたら枯れるのはある程度しかたがないことなんです。
 
僕は「緑は命の色」と捉えています。グリーンを室内に入れることは、空間に、生活に命を吹き込むということ。植物の命をちょっと借りる感覚です。どんな命でも永遠じゃないじゃないですか。植物もそうなんですよね。
 
命ある植物に感謝の気持ちを持っていれば「ほったらかして2カ月水やりしなかった」なんてことにならないし、枯らすことも減っていくと思う。モノのような感覚で「かっこいいから」「おしゃれな家にはグリーンがいるよね」って買ったはいいけど水やりもしないし感謝もしなかったら、そりゃ枯れます。なんでも調べられる時代なんだから、自分で調べてみればいいんですよ。