くらし談義

暮らしを楽しむことから始まる、グリーンとの気軽な付き合い方<1/4>
齊藤太一さん 造園家、クリエイティブディレクター(SOLSO代表)

植物のスペシャリストである齊藤太一さんは、現在のグリーンのトレンドを語るのに欠かせない人物。川崎の『SOLSO FARM』やライフスタイルのなかのグリーンを提案する『BIOTOP NURSERIES』などのショップや、リビタが手掛けたまるごとリノベーションマンション『リノア目黒大橋』やシェアオフィス『12SHINJUKU』など、植物と建物が調和した住宅・商業施設などのデザインを通して、気軽におしゃれにグリーンに親しむ提案をしています。2018年秋には、南青山に「都会の真ん中にある新しいパークライフスタイル」がコンセプトのショップ『SOLSO PARK』をオープン。植物のある暮らしの始め方、住まいとの関係を聞きました。

PROFILE

齊藤太一(さいとう・たいち)
 
岩手・花巻で育ち、15歳からガーデンデザインを始める。高校時代にフランク・ロイド・ライトの「落水荘」を本で見たのをきっかけに、植物と建築、暮らしが調和した空間作りを志すように。高校卒業後、東京・青山の生花店に勤務してグリーンコーディネートや造園などの仕事に8年従事したのち、2011年、株式会社DAISHIZEN設立。植物のプロ集団『SOLSO』代表として住宅や商業施設、オフィスなどのインドアグリーンやランドスケープデザイン、ライフスタイルに寄り添うグリーンを提案するショップやファームの運営などを手がける

10代で心に決めた「建築と暮らしと植物がバランスのいい空間づくり」
 
―2018年秋、南青山の複合施設『SHARE GREEN MINAMI AOYAMA』にグリーンショップ『SOLSO PARK』がオープンしました。広い施設内には大きな木や多肉植物、寝転がりたくなる芝生の広場もあって、「本当にここが青山?」と思うほど開放的です。
 
施設全体の植物をSOLSOがプロデュースしています。川崎の『SOLSO FARM』もそうですが、こうした大きな場所をつくるのは、グリーンがある空間の気持ちよさを買い物しながら体感してもらえるから。たとえ鉢植え一つ買って帰るだけだとしても、「いつか引っ越したら植物でいっぱいの部屋にしよう」とか「家を建てたら広い庭を作りたいな」だとか想像が広がれば、世の中に勝手にグリーンが広がっていきますよね。そういう空間を作りたいと思って。


「青山はおしゃれな場所やいいものが他にたくさんあるから、ここは息抜きできる気軽な場所を目指しました」と齊藤さん

 
 
―「この鉢と植物の組み合わせがかわいいな」と雑貨感覚で選んだり、「天井からたくさん吊るしたらジャングルみたいで楽しそう」とわくわくしたり、SOLSOのショップではインテリアのイメージが広がります。
 
2011年にSOLSOを立ち上げた時、「普通のライフスタイルに植物を取り入れる提案をしよう」と考えました。そのためにはおしゃれじゃなきゃいけないし、かわいい方がいい。だから飾り方や周辺アイテムも、いろんなアイデアを打ち出しています。
 
一方でガーデンデザインや空間コーディネートのプロジェクトは100%建物の設計段階から参加して、空間との融合を目指しています。気軽に始められるグリーンのある生活と、建築と植物が融合した空間づくり。ブランドの中で二極化させているんですよ。


鉢とのコーディネート、ハンギングなど飾り方も参考になる
 

 
―これまでSOLSOが手がけた住宅の庭や『LOG ROAD DAIKANYAMA』『蔦屋家電』などの商業施設でも、建築と植物の融合は体現されていますね。この考えに至ったのはいつごろですか?
 

17歳か18歳の時にフランク・ロイド・ライトの「落水荘」を本で見て、「これだ!」とカルチャーショックを受けたんです。もちろん建築もすごいんだけれど、まわりの自然と融合していることが素晴らしかった。滝の上に立っていて、周囲の植物との関係も考えられていて。数年後に実際に現地も見に行ったんですが、室内もプランターが絶妙な配置で置かれていたり、内と外のバランスというのかな。自然と生活や人間、いろいろなバランスがちょうどいいグラデーションになっていると感じました。


SOLSOがコーディネートを手がけた『二子玉川 蔦屋家電』。グリーンと家具、光との調和が楽しい

 
―10代のころから植物や庭に興味があったんですか?
 
僕、15歳のときから独学でガーデナーを始めたんですよ。地元の花巻で。近所のおじちゃんの手伝いで野菜の苗を売るバイトから始まって、そのうち「お前、庭作れるか」と頼まれるようになって。デビューは、近所にオープンしたケーキ屋さんの庭でした。
 
―15歳から! しかも独学だったのですか?
 
はい。知識がほしくてとにかくいろんな本を読んだんですが、地元の書店に行くと「イングリッシュガーデン」とか「バラの〇〇〇」しかない。自分がどんな庭を作りたいかそこまで具体的には決まっていなかったけど、「なんか違うな」と感じていたんです。そんな時、近くに大型書店ができたので行ってみたら、今では一般的ですが「建築」「インテリア」「旅行」など書棚がジャンル分けされていて。でもなんせ花巻育ちだから「インテリアってなんや?」「建築といえば切妻屋根の、日本家屋だろ?」という状態でした(笑)。
 
その時たまたま手に取って開いたのが、フランク・ロイド・ライトの本だったんです。最初は名前も読めなかったですけど(笑)、「すごいな。建築ってこういうものか」と。そこで『落水荘』を見て、ぶったまげたわけですよ。「俺が作りたいのはバラがあふれるアーチの家じゃない、これだ!」と思いました。そこから毎日のようにその書店に通って、いろいろな建築の本を立ち読みしましたね。
 

日当たりのいいオフィス。たくさんの植物や建築の洋書がデザインのヒントに
 
 
―そこから建築に惹かれていったんですね。
 
そう、最初は勉強して建築家になろうと思って。でも、すぐ諦めたんですよ。なぜかというと、調べてみたら日本にも安藤忠雄だとか有名な建築家がたくさんいて、「同じ土俵に立っても、よっぽど能力がなければ商売にならないな」と思ったから。15歳から商売をしていたから妙に商売っ気があって(笑)、冷静にマーケティングしたんですね。
 
―なるほど。そこでガーデンデザインに立ち戻ったんですか?
 
はい。当時の園芸業界にはイングリッシュガーデンのようなファンシーな世界観しかなかったから、落水荘のように自然と人間と生活がちょうどいいバランスの庭を作ろうと思ったんです。庭を庭として、建築を建築としてつくるんじゃなく、人間の生活中心で家の形を決めるのでもない。「この3つのバランスが大事」ということが見えてきて、自分は植物というジャンルに特化していこうと決めました。