豊かに暮らすひと

暮らすように働く生き方で、まちを楽しむ二拠点生活。<2/4>
岸本 千佳さん 不動産プランナー(addSPICE代表)

京都で不動産プランナーとして活躍する岸本千佳さん。不動産の企画から仲介、管理までを手がけるほか、「京都移住計画」の不動産担当として京都への移住や二拠点生活を希望する人への不動産紹介も行っています。東京で不動産ベンチャーに勤めた後、京都で独立起業。そして今年、結婚を機に京都と和歌山の二拠点生活を開始。ふたつのまちを行き来しながら、暮らすように働く岸本さんの生き方には、まちを楽しみ暮らすヒントが詰まっていました。

京都はさまざまなキャラクターのまちの集合体
 
—京都に移住する方たちに人気のエリアはありますか?
 
それが、あんまりないんです。京都に住んでいないけれど京都が好きだと言う人たちの中には、寺社仏閣や祇園や町家のイメージが強すぎて、観光地以外の京都のまちがどういうまちなのかイメージがつかない人が多いんです。もちろん、どんなまちで、どんなふうに暮らしたいかを聞くんですが、それを言語化するのはなかなか難しいですよね。それで、そういう方たちのガイドになればと思って作ったのが、『もし京都が東京だったらマップ』です。
 
—京都の各エリアを東京のエリアに例えたマップですね。岸本さんがブログで発表した後、より詳しい解説をつけて書籍化もされました。
 
『京都移住計画』は京都への移住を希望する人を応援するプロジェクトで、行政ではないし、京都への移住を促進したい!というのではないんですけど、移住される方はそれまでの仕事を辞めたり住処を離れたり、意を決して京都に来るのに、「合わなかったから帰る」となってしまうのは、やっぱり悲しいじゃないですか。だから、もっと京都の現実を知って、良いところも嫌なところも分かった上で来てもらえたらと思って、『もし京都が東京だったらマップ』を作りました。
 

岸本さんが2015年にブログで発表した後、解説文を加えて書籍化された『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書Q)
 
 
—四条大宮は赤羽、北山は代官山・青山、出町柳は中野、壬生は清澄白河…など、どんな雰囲気の建物や店があって、どんな人たちが歩いているのかという、「暮らす」視点からのまちの比較が面白かったです。
 
もともとどういうまちで、誰のためのまちか、というまちのキャラクター分析は、私自身が不動産プランナーとして企画を立てるときに大事にしていることでもあります。
 
例えば、私が企画から行った『SOSAK KYOTO』というクリエイターのためのシェアアトリエは、京都駅近くの八条というエリアにあるんですが、ここは開発途上のまちで、まだあまり特色がないんです。まちごとに特色がありすぎる京都では、逆に色がないことが特色になると思い、線路沿いの物件だったこともあって、「音を出してOK」という際立った特徴を持つ物件の企画につながりました。
 

まちに特色がないことと線路沿いの環境を逆手に取った、音が出せるシェアアトリエ『SOSAK KYOTO』(photo:平野愛)
 
 
—目立った特色がないとは、京都にもそんなまちがあるんですね。このマップを見ていると、イメージが漠然としていた京都が、実はとても多様なまちの集合体なんだと気付かされます。
 
先日、京都駅近くで金箔工芸士をやっている方とお話する機会があったんですが、あの辺りはもともと京仏具の職人のまちなんですよ。金箔貼りの体験ができる店もあるんですが、それを表立って言っていなかったりするんです。看板を見れば、なんとなくそういうまちだということはわかるんですが、まちのキャラクターを体験できるような場が全然ないんですね。京都駅がすぐ近くにあって宿もたくさんあって、旅行者もたくさんいるのに、みんな通り過ぎて分かりやすい観光地へ行ってしまうんです。
 
—京都に訪れる旅行者にとっても、それぞれのまちのキャラクターを体験できる場が増えたら、旅の仕方が変わりそうです。
 
私の地元でもある宇治は、平等院やお茶どころとして有名なエリアなんですが、メインストリートは観光客向けの商店が並んでいて、雰囲気良く食事ができる店も、地域に住んでいる人が楽しめるような店もほとんどありませんでした。でも実は、メインストリートから一歩奥に入ると、小さな川が流れていたり、道が曲がりくねっていたり、古い町家も残っていて、昔ながらのいい街並みが残っているんです。
 
そこで、町家と建具工場だった空き家をリノベーションして、『中宇治yorin』という小商い三店舗とイベントスペースにしました。宇治にはこういうところもあるんだよ、と訪れる人に提案する場所になればというのと、地域に点在している空き家をこんなふうに再生できることを地元のひとに体感してもらえればと思って企画しました。
 

小商い三店舗とレンタルスペースの複合施設に再生した『中宇治yorin』。東京から移転してきた店も入っている(photo:平野愛)
 

 
「暮らす」視点から見えてくる京都のまちの魅力
 
—岸本さんは旅行者と地域に暮らす生活者の両方の視点、双方から京都のまちを見ているんですね。
 
京都の不動産を扱う上で旅行者の視点は外せないということもありますが、メインは住まいをつくる仕事なので、やっぱり暮らす視点からまちを見ることが多いですね。最近は旅行者も、「暮らすように旅をする」に変わってきているように思います。
 
『もし京都が東京だったらマップ』を書くときに、いわゆる「京都本」というものを片っぱしから読んだんですが、大体が観光名所のいわれや歴史といった内容で。それはそれでいいんですが、せっかく住まいを扱う自分が書くのだし、この本は京都への移住を希望する人のガイドとして以外に、暮らすように京都を旅するガイドとしても使ってもらえたらと思いながら執筆しました。
 

まちを歩くと人々の暮らしぶりが見えてくることが楽しいと話す岸本さん。企画に取り組む際も、まずはまち歩きから始める
 
 
—特に海外からの旅行者の方は、観光客向けの場所よりも、その土地の生活者の暮らしが見える風景を喜ぶ気がします。
 
例えば西陣は、今でも日常文化として着物があるようなまち。玄関先に竹筒を吊るして花を活けていたりとか、特別着飾っているというわけではなくて、日々の暮らしを彩ろうという感覚が当たり前にあることが、すごいと思うんですよね。西陣のあたりは観光で来る人が少ないのですが、たまにヨーロッパ系の観光客を見かけるとやっぱりそういうところを写真に撮ってたりするんですよね。日本の方の場合は、目的の店や施設がないと知らない場所に行きにくいのかもしれません。
 
—そういう方にこそ、京都旅のガイドとして『もし京都が東京だったらマップ』を活用していただきたいですね(笑)。
 
でも、京都に住んでいないのに、私よりも京都に詳しい人もたくさんいます。喫茶店に行くと、「毎年この季節に京都に来て、このカフェに来るんです」と話しているお客さんがいて、そんなふうに京都での旅の定番を決めて通っている方もいるようです。
 
—まさに、「通う」感覚ですね。京都と他の地域で二拠点生活という方もいるのでしょうか。
 
東京と京都という組み合わせの二拠点生活を送られる方は多いですね。大体みなさん、京都での住まいはセカンドハウスという位置付けなんですが、セカンドハウスとしての利用で丸々1軒家を持つのはコストや維持管理的にも大変じゃないですか。でも、少し長めに京都に滞在したいという人も多いはず。そんな人たち向けに、シェア型のセカンドハウス、「シェア別荘」ができないかなと構想しているんです。
 
—シェア別荘!「暮らすような旅」をしたい人にはぴったりですね。移住を希望する方のトライアルステイとしても良さそうです。
 
プランニングだけじゃなくて移住相談や仲介の仕事もしているのは、そんなふうに京都で暮らしたい人たちのニーズを滞りなく汲み取れるからということもあります。もちろん、ご相談が来た物件ごとに企画を考えるんですが、「この物件ならあのニーズに応える企画ができるかも」と結びつくときがあるんです。特に、身の回りの友人や、自分がほしいものはニーズが確実なわけじゃないですか。適した物件が出てきたときに即企画に生かすことができるんです(笑)。