くらし談義

暮らすように働く生き方で
まちを楽しむ二拠点生活<1/4>
岸本千佳さん 不動産プランナー(addSPICE代表)

京都で不動産プランナーとして活躍する岸本千佳さん。不動産の企画から仲介、管理までを手がけるほか、「京都移住計画」の不動産担当として京都への移住や二拠点生活を希望する人への不動産紹介も行っています。東京で不動産ベンチャーに勤めた後、京都で独立起業。そして今年、結婚を機に京都と和歌山の二拠点生活を開始。ふたつのまちを行き来しながら、暮らすように働く岸本さんの生き方には、まちを楽しみ暮らすヒントが詰まっていました。

PROFILE

岸本千佳(きしもと・ちか)
1985年京都生まれ。2009年滋賀県立大学環境建築デザイン学科卒業後、東京の不動産ベンチャーに入社し、シェアハウスやDIY賃貸の事業立ち上げに従事。2014年、京都でaddSPICEを創業。不動産の企画から仲介、管理までを一括で引き受ける。ほか、改装OKな賃貸物件の検索サイト「DIYP KYOTO」の運営、京都への移住者を応援するプロジェクト「京都移住計画」の不動産担当として物件紹介や職住一体相談を担う。移住者へのガイドとして制作し個人ブログにアップした「もし京都が東京だったらマップ」が話題となり、『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書Q)として書籍化。

「暮らすように働く」を求めて京都へ移住
 
—岸本さんは京都で不動産プランナーとして活躍されています。不動産プランナーとは、具体的にどんなお仕事なのですか?
 
物件を所有するオーナーさんから建物をどう活用すればいいかという相談を受けて、建物や周辺の環境やまちの特性を考慮しながら活用プランを提案して、設計施工のコーディネートや、入居者の募集と仲介、その後の管理までを一括してひとりでやっています。
 
—どのような物件のご相談が多いのでしょう?
 
築年数が経っている木造アパートだったり、規模の大きい町家など、誰に頼んでいいか分からないような、ちょっと難ありな物件が多いかもしれません。
 
「古くてボロボロだから借り手がつかない」とオーナーさんが思っていても、中にはそのままでも借り手がつきそうな物件もあるので、そうした物件は私が運営している改装OKな賃貸物件検索サイト『DIYP KYOTO』や、不動産担当として携わっている『京都移住計画』のサイトで移住者向け物件として紹介することもあります。
 
—岸本さんは、以前は東京の不動産ベンチャー企業にお勤めでした。なぜ京都で起業なされたのですか?
 
私は京都の宇治市出身ですが、「いつか京都に戻りたい」といった地元愛があったわけではないんです。以前勤めていた不動産会社には、創業メンバー以外の初の社員として入社しました。創業から間もないベンチャー企業で働いていたせいか、「事業は自分たちで起こすもの」という感覚が自然と身についていたのかもしれません。シェアハウスやDIY賃貸の企画から運営管理までをひと通りやって、そろそろひとりでも規模が小さい物件だったらやっていけそうだなと考え始めて、そのとき、「あ、京都でやるのがちょうど良さそう」と思ったんです。
 

東京の不動産ベンチャーでシェアハウスやDIY賃貸の事業立ち上げに従事した後、28歳のときに京都でaddSPICEを創業
 
 
—小さく起業をするのに、京都がちょうど良い?
 
東京には、同じフィールドに立つプレイヤーがすでにたくさんいたんですよね。でも京都は、東京に比べたらまだまだそういった不動産活用のプランニングができるプレイヤーが少なくて、ニーズがありそうな京都なら、独立して自分のやりたい仕事をやっていけるかなと思ったんです。
 
『京都移住計画』代表の田村と私とで行っている「職住一体相談会」という個別相談に来られる方たちも、自営で働くという前提の人が多いですね。30代40代のご夫婦やファミリーで飲食店をやりたいという人も多いし、シングルの女性で雑貨店をやりたいとか、あと二、三年で今の仕事をリタイヤして緩やかに働きながら京都に暮らしたいという方もいます。
 
—京都のまちは、自分のペースで働きやすいということでしょうか。
 
京都は昔から職人さんやお店など、職住一体をしている人がたくさんいるからかもしれません。働くことと住むことが分離されていないので、自分のペースで暮らすことができそうなところが、京都への移住を希望する人たちにとって魅力的なんだと思います。
 
あとは、東京に比べると物件が安いことも、移住を希望する人たちが京都で商いを始めたいと思う理由のひとつだと思います。1階でお店をして2階に住むという暮らし方ができる物件が、探せば月10万円くらいである。つまり、東京だったら家だけの賃料程度で、店も家も借りられるというわけです。人もたくさん生活しているし、旅行者も来ます。新規性のあるものでも、需要が開拓できる可能性が高いまちだと思います。
 
一方で、まちが小さくて人のつながりが強いので、京都で何かを始めるなら、真摯な姿勢で取り組むことが大事だとも思います。そこは相性ですよね。ただ、京都の人は、人を肩書きや経歴で見ないので、そこはいいところだと思っています。自分が対面して感じた人物だけを基準にしているというか。私は自分の仕事のやり方としてそれがすごく合っているし、助かっている部分でもあります。大きな組織や大きな事業の流れの中だと、効率や合理性が優先されてしまうこともありますが、私は、オーナーさんや施工会社さんや、その物件に住む入居者さんとか、プロジェクトに実際に関わる人たちと密に関わり合って仕事をするのが好きなんです。京都でできた友達は、ほとんどが仕事を通じてできた友達です。
 

リビタのシェア型複合施設「the C」で行われた「京都移住茶論in東京」の様子。右は『京都移住計画』代表の田村篤史さん
 
 
—岸本さんご自身も、働くことと暮らすことが一体になっているんですね。
 
自分たちで新しく商いを始める上でも、住みながらやっているほうが、地域に受け入れられやすい印象があります。例えば、昔ながらのつながりが強いまちで宿泊業をやろうとすると、近隣から反対の声が出て計画がなくなってしまうこともあるんですが、大きな町家を買って宿をしながら自分たちも住んでいる移住者のご夫婦は、うまく地域に馴染んでいたりします。
 
私が仕事場を置いている西陣も、観光客向けのお店はほとんどなくて、仕事をしながら暮らす職人のまち。西陣織は世界的に有名ですが、昔に比べたらやっぱり産業は衰退していて、事業を畳むところも出てきている中、自社ビルの数フロアが空いているといった話もとても多いので、そういう物件を職住一体の暮らしができる物件に再生して貸し出すことができないかと、提案しています。
 
地域にもともと住んでいる人たちの側を考えても、そのまちのこれまでの文脈にないものを突然ポンっと入れるよりは、これまで通りの「住みながら働く」という形を外さず企画したほうが、いいと思うんですよね。そんなふうにまちに合う人を選べる物件をつくっていけば、移住者ももともとの住人も地域も、みんなが幸せになれるんじゃないかと考えています。