くらし談義

「まちを面白がる」達人の
楽して楽しむ生き方術<1/4>
唐品知浩さん ねぶくろシネマ実行委員長、オモシロガリストなど

別荘・リゾートマンション専門ポータルサイト『別荘リゾートネット』での別荘地マーケティングを本業にしつつ、『YADOKARI小屋部部長』『ねぶくろシネマ実行委員長』『◯◯を面白がる会主催者』『いっぴんいち主催者』と合計5つの肩書きを持つ唐品知浩さん。肩書きを使いこなしながら様々な場所でコミュニティをつくり、街が活性化する活動をしている唐品さんは、汎用性のあるビジネスモデルを構築することで、多数の活動を持続可能なものにしています。今回は、ユニークなコミュニティ形成の方法やこれからの働き方について話を聞きました。

PROFILE

唐品知浩(からしな・ともひろ)
株式会社リクルートで15年間、別荘系不動産広告営業に従事した後に独立し、別荘・リゾートマンション専門のポータルサイト『別荘リゾートネット』を立ち上げる。同時並行で、DIY好きが集まって自力で小屋を建てる『YADOKARI小屋部』を発足。さらに、自身も暮らす調布を拠点にまちをリデザインする合同会社パッチワークスを立ち上げ、『ねぶくろシネマ』の実行委員長を務めつつ、ひとつのテーマについてアイデアを出し合う『◯◯を面白がる会』や、とっておきの一品を販売するマルシェ『いっぴんいち』も開催している。調布市在住、3・7・9才の男児の父。

調布にある“隙”が、まちにコミットするきっかけに
 
—唐品さんは、調布市にお住まいです。いつから調布で暮らしているのですか?
 
2004年から住んでいます。最初は賃貸マンションで、近所に一棟まるごとリノベーション分譲マンションが売り出されたのを見て、リノベーションを前提に購入しました。40㎡の庭があるマンションの1階で、平屋感覚で住めるのが気に入っています。
 
—15年も暮らしていると、調布のまちが変わっていく様子もよく分かるのでは?
 
以前は駅前にPARCOくらいしかなかったのですが、今は商業施設が増えて、調布駅周辺で日常の買い物が完結するようになりました。ただ僕は、「調布のまちが大好き!」というわけではないんです。実家は国立なのですが、国立は高層ビルを建てないとか、パチンコ屋はつくらないとか、まちにポリシーがあって、市民として好きになりやすい要素があります。でも、調布にはポリシーを感じなかった。例えば調布は、“映画のまち 調布”とPRしていて、その理由は多摩川撮影所など映画関連の企業が市内に多くあるからなのですが、一般の人には撮影所は関係がないし、トリエ京王調布にシネマコンプレックスができる2017年までは、数年間、市内に映画館がなかった時期もあり、“映画のまちに暮らしている”という感覚はありませんでした。
 
都内のオフィスの他に、今は調布のコワーキングスペースにサテライトオフィスを置いて、職住近接の暮らしを送っている
 
 
—そうは言いつつも……、唐品さんは多摩川河川敷の橋脚に映像を映して家族で映画を楽しむ企画を立てたり、調布駅前の広場でマルシェを開催したり、調布市内のシェアオフィスにサテライトオフィスを置くなど、普通の調布市民よりずっと調布のまちにコミットメントしているように感じます。
 

調布で暮らしているうちに、まちの粗というか、まちの課題に気が付くようになっていって。僕は以前、恵比寿で暮らしていたのですが、恵比寿は何でもあってまちとして完成されていて、僕が立ち入る“隙”は無かった。一方で、調布には“隙”があって、僕にもできることがあるように感じて、まちに対してアクションを起こすプロジェクトに携わるケースが増えていきました。
 
そうやって、市民の課題解決をする企画を立てたり、オフィスを調布に置いたりして知り合いが増えていくうちに、まちが身近な存在になってきた。だんだんと、調布がもっと楽しくなるにはどうしたらいいか? 子どもが自慢してくれるまちになるにはどうしたらいいか? というまちの捉え方に切り替わりました。
 
 
調布は、まちを、暮らしを楽しくするための“実験場”
 
—唐品さんは街に対して様々な活動をされていますが、そのひとつに『ねぶくろシネマ』の実行委員長があります。この立ち上げの経緯にはやはり、調布市への課題感があったのでしょうか?
 
実は、始まりはうちの奥さんの「子どもが小さいうちは映画館には連れていけない」という愚痴だったんです。同じタイミングで、調布市が“映画のまち宣言”をしたけれど、新たな打ち手がないというご相談を頂いて、このふたつの課題をまとめて解決できる方法を探って出てきたのが『ねぶくろシネマ』です。
 
子どもが騒いでも怒られないアウトドアの映画上映を調布市の多摩川河川敷でやったら、多くの家族が観に来てくれた。僕の奥さんの不満は隣町のお母さんの不満だったし、全国のお母さんの不満でもあった。今では『ねぶくろシネマ』は全国に広がっています。こんなふうに、多くの人に良い影響があることが仕事になるのは素敵だなと思っています。
 
多摩川河川敷で開催された『ねぶくろシネマ』には、調布市で暮らす多くの家族が集まった。上を通る鉄道の音もご愛嬌
 
 
—2018年7月には、調布市のシェアプレイス調布多摩川(※1)で『いっぴんいち』というマルシェを開催されました。“こだわりの逸品を一品持ち寄る”というテーマで、21の専門店が集まって大盛況でしたが、これもまちの課題解決から始まったのですか?
 
よく商店街に人が来ないと言われるけれど、僕はそもそも商店街に本当に良いものが集まっているのか? 良いものが集まれば人は来るのではないか? と思っていました。商店街の人たちに「本当に良いものを集めているの?」とは聞けないけれど、商店街の中に良いものだけを集めたもうひとつの商店街をつくったら、活性化につながるのではないかと思ったのが始まりです。最初は西調布一番街商店街で開催して、次が調布駅前の広場、3回目にシェアプレイス調布多摩川で開催しました。
 
シェアプレイス調布多摩川で開催された『いっぴんいち2018』の様子。photo by樋口晃亮
 
 
—『いっぴんいち』は回を重ねるごとに規模が大きくなって、注目度も上がっているように感じます。
 
『いっぴんいち』を一番楽しそうにやっているのは、子どもたちなんです。子どもたちにとって、自分でものを作って値段を決めて売るという経験は楽しいみたいで、僕の子どもも毎回参加しています。親として子どもに対面でモノを売ることを経験させたいという思いもあって、今の『いっぴんいち』は商店街を活性化するというよりも、子どもの教育という側面が強くなっています。マルシェなどの開催は時間も人も必要で稼ぎとしてはイマイチなのですが、子どものためと思えばやれます。
 自分たちの“作品”を『いっぴんいち』に出品する子どもたち。photo by 樋口晃亮
 
 
—街の課題解決のためにコミュニティが形成されて、そのコミュニケーションを楽しみながらスケールしていく様子が痛快です。『ねぶくろシネマ』も『いっぴんいち』も、始まりは調布からですね。
 
僕は自分の暮らすこのまちは実験場だと思っていて、調布から始まった『ねぶくろシネマ』も『いっぴんいち』も近所の人が来てくれて、関係性が近いから口コミで広がっていきました。ある程度の人数が来てくれると評判になって、横展開して別の地域に持っていける。調布を実験場と捉えると、多少は自分たちでお金を持ち出しても実施するというスタンスでやれるし、実験に成功したら自分たちが暮らしているまちが良くなっていく。そういう試みができる“隙”があることが、調布の魅力かもしれません。


※1 シェアプレイス調布多摩川 リビタの運営する大型シェアハウスと大学国際寮。