豊かに暮らすひと

雨の日も晴れの日もくつろげる暮らしづくりを工芸で。<3/4>
金子 憲一さん 「雨晴」主人/ディレクター

東京都港区白金台にある『雨晴/AMAHARE』。自然に寄り添いながら暮らしの道具づくりをしている、日本各地の作家や職人のしなものを取り扱うブランドです。ヴィンテージマンションの1階にあるお店は、さりげないおもてなしが上手な家に招かれたような、すっと心が落ち着く空間。「雨の日も晴れの日も心からくつろげる暮らし」をブランドコンセプトに掲げ、取り扱っているしなものの7割が食にまつわるもの。ご自身も、「きちんと料理をして、きちんと食べることが暮らしの基本」という、『雨晴』主人の金子憲一さんにお話を聞きました。

当たり前のことを、当たり前にしていく大切さ
 
—さまざまな作家さんの豊かな暮らしぶりを見ている金子さんですが、ご自身はどんなお住まいに暮らしているのですか?
 

近くに大きな公園があって、東京でありながらも自然を身近に感じられる場所に住んでいます。リノベーションされた物件で、共用部が充実していて屋上が住民に開放されています。屋上を自由に使えるのは、そこに住む決め手のひとつになりました。休日にどこかに出かけるのもよいのですが、プライベートな場所で風や自然を感じたいときもあります。そんな日は、屋上にハンモックを吊ってゆっくりまどろんでいます。
 
—マンションなのにそんな環境がある暮らしは、うらやましいですね。『雨晴』のコンセプトである「雨の日も晴れの日も心からくつろげる暮らし」をご自身の暮らしでも実践なされている金子さんが、普段心掛けていることがあれば教えてください。
 
休みの日は家族でゆっくりすること、きちんとごはんをつくって食べる。季節のもの、鮮度の良い食材を、家族と会話しながら買って、料理して、食べる時間を意識してつくっています。器をきちんと選んで、ゆっくりお酒を飲みながら食事をすることが僕のリセット方法で、食生活を含めて日々愉しむことを心掛けています。
 

金子さん愛用品の一部。「宮城陶器」のゴブレット、「fresco」の小鉢、「Shimoo Design」の丸皿、竹俣勇壱さんのカトラリー。
 

未来の暮らしを一緒に描ける工芸を選ぶ
 
—これまでに『雨晴』で扱ってきた工芸品の多くは、金子さんご自身も使われているそうですが、特に印象に残っている作り手さんや工芸品はありますか?
 

どの作り手さんもとても印象深いのですが、あえて挙げるなら富山の木工作家Shimoo Designの下尾和彦さん、さおりさんご夫妻です。もう10年くらいのお付き合いがある作家さんで、お二人とも家具職人として修行をされた後に独立。富山県八尾町に自宅兼工房を構え、作品づくりに励んでいらっしゃいます。

和彦さんもさおりさんも生活感度がとても高く、家具以外に食に関連するものにも興味をお持ちで、食器の製作も手掛けるようになりました。木の器は、料理をのせると木にシミがついてしまうのが悩みでした。10数年、試行錯誤して誕生したのが、経年変化したような詫びた表情を持ちながら、油にも水にも強い木の器です。ちょうど、ガラスコーティングの技術が世の中に出始めた頃で、技術革新とShimoo Designさんの想いが合致して生まれました。今では国内に限らず海外のシェフからも注目される、人気の作品になりました。
 
この器が出来てからShimoo Designさんの作風はガラリと変わって、本職の家具にも生かされています。無塗装のような木の木目が浮いて見えるShimoo Designさん独自の仕上げ方法を『浮様(ふよう)』と名付けてブランドにされたのですが、この浮様のロゴを『雨晴』に依頼していただいたんです。ひとつの店、ひとつの作家という枠を超えて、お互いのブランドをつくっているという点で、とても印象深い作家さんです。
 

菱から成る『雨晴』のロゴ。雨粒と太陽の光を表し、三つに重なる菱がお客様・作り手・『雨晴』の三位一体を表しているという。
 
—今や全国的に知られるようになったShimoo Designさんですが、金子さんは10年前から注目されていた。良いものを見極める審美眼は、どんなふうに磨いているのですか?
 
ものを見る力ですか…。自分にその能力があるのかはわかりませんが、強いて挙げるなら子どもの頃から工芸品に触れられた経験が大きいと思います。ただ眺めるだけではなく、使っていたという経験です。仕事を始めてからは、たくさんの器を作り手さんの元で拝見してきたので、作品や工房の雰囲気で、良さそうなもの、他とは違う雰囲気があるという気配は感じられるようになりました。あとは、つくっている方との相性もありますね。『雨晴』のコンセプトに共感して頂き、その作家さんと明るい未来をつくることができたらうれしいです。
 
個人的には、素材の特徴が出ていて、個体差がある作品に惹かれます。長く使えるものを選ぶのは前提として、眺めているとそこに自然の情景が広がってくるというか、その作品の世界に引き込まれるものに興味があります。少し歪んでいるけれど、そこに魅力を感じたり、新しいものなのに、時代がかった空気をまとっているものを選ぶ傾向がありますね。
 

白木の棚板は、自宅の食卓に並べたときの風景が浮かぶようにと、「お盆」をイメージして製作されたもの。
 
—全国の作家さんを巡るために都会と自然を行き来されている金子さんは、仕事とプライベート、都心と地方などの境界線を引かずに活動されているように感じます。
 
工芸が趣味であり仕事でもあるから、今は、仕事とプライベートの境界線はなく、仕事が生活の一部になっているのかもしれません。工芸は奥が深くて、全てを知ることができない世界です。でも、それを学ぶことで自分の国のことを理解していけるし、文化も知ることができる。工芸に関わる仕事をこの先も生業にしていけたら良いなと思いますし、そうなれたら幸せです。
 
都心でも地方でも、自然を感じられるような住まいがあると良いと思いますが、場所的な要因は簡単には解決できません。それでも自然を感じられる要素として、僕は工芸品があると思っています。工芸は、自然から生まれた素材を使っているので、工芸品を持っているということは、手元の中で自然を感じられる暮らしを実現できる可能性があるということ。多くの人が、手の中で自然を感じながら生活していけたら素敵だなと思っています。
 

展示は「集い、語らう、ご飯の時間」「おもてなしのお茶の時間」「自然を肴に、お酒の時間」という3つのシーンで構成。

 
interview_ 石川歩 photograph_ 古末拓也 一部写真提供_ 雨晴
取材・撮影:2018年7月