豊かに暮らすひと

雨の日も晴れの日もくつろげる暮らしづくりを工芸で。<2/4>
金子 憲一さん 「雨晴」主人/ディレクター

東京都港区白金台にある『雨晴/AMAHARE』。自然に寄り添いながら暮らしの道具づくりをしている、日本各地の作家や職人のしなものを取り扱うブランドです。ヴィンテージマンションの1階にあるお店は、さりげないおもてなしが上手な家に招かれたような、すっと心が落ち着く空間。「雨の日も晴れの日も心からくつろげる暮らし」をブランドコンセプトに掲げ、取り扱っているしなものの7割が食にまつわるもの。ご自身も、「きちんと料理をして、きちんと食べることが暮らしの基本」という、『雨晴』主人の金子憲一さんにお話を聞きました。

作家の暮らしに寄り添って、長く付き合っていく
 
—長く工芸品に携わってきた金子さんが工芸品に感じる魅力とは、どんなことですか?
 
作り手の方の個性がものから伝わってくることですね。ものを見たときに直感的に魅力を感じたことが、作家さんと会ってその方を知ることで、「そういう想いがあるから、このような佇まいの美しい作品が生み出されるのだな」と理解できる。
 
そして、それは必ず変化するんです。時間が経てば人の気持ちや暮らしは変化していく、その変化とともに良い意味で作品も変化していくのが魅力的だなと思います。
 
—いま、雨晴では40件弱の作家さんや職人さんとお付き合いをされています。作り手の方々とはどのように出会うのですか?
 
もともと僕が好きで、作品を愛用している作家さんにお声がけをしたり、地方ではギャラリーや伝統工芸会館に立ち寄ります。そこで気になったものをつくっている作り手さんの住所を教えて頂いて、会いに行くこともあります。あと、沖縄で作家さんと飲みに行くと、知り合いの作家さんや陶芸を志すお弟子さんを紹介してくださることが多いんです。その時はお弟子さんだった方がその後、独立してお取引が始まったということもあります。すべては人と人とのご縁からお付き合いが始まっています。
 

2018年7月に初の個展を『雨晴』で開催した眞喜屋修さんの器。手にフィットする端正なかたちとモダンなデザインが特徴。
 
—作り手の方々とお付き合いするときに気をつけていることはありますか?
 

作り手の想いを、お客様に正しく伝えることを常に心掛けていますね。一度会っただけでは聞けないことや理解できないこともあるので、何回も足を運んで、飲みにも行って(笑)、一緒に展示会を企画しているうちに、作り手の想いを少しずつ理解していきます。
 
人の感情は時間が経つと変わるものなので、今はこんなことを考えているからこんな表現をしたいのかと解釈して、その心境のときに、『雨晴』では何ができるかを考えていますね。
 
—ただ作品を取り扱うのではなく、作家さんの暮らしと生き方に寄り添いながらお付き合いをしているのですね。
 

作家さんと、より深く長いお付き合いをしたいという思いは大きいです。例えば、1年に1回、個展を開催しても、作家さんは1年で心境の変化があって作風が変わる。その変化の過程をきちんと一緒に見ていけるのが、同じ作家さんと長くお付き合いするメリットですし、そういうパーソナルなお付き合いができるという意味でも、工芸に関わる仕事は魅力だと思います。
 
ビジネスの観点で言うと、『雨晴』オリジナルの商品をつくって欲しいとか、納期を早めて欲しいとか(笑)、いろんな要望が出てきます。でも作家さんや職人さんは家業として経営されている方も多いので、家族の事情があったり引っ越しをしたり……生活そのものが仕事につながっている。僕が企業の人として接するとそこが見えなくなるし、短期間のお付き合いでは理解できないことです。僕の背景に会社があったとしても、僕自身はいち個人として接するようにしていて、長く関係性を持つ中で、お互いが気持ち良くできるように相談しながらお付き合いして頂いています。
 

「家庭のテーブルに並んでいる様子が、少しでも浮かぶようにしたい」という思いで、作品がディスプレイされた店内。
 

作家の暮らしの中には、私たちの暮らしに役立つヒントがある
 
—長く作家さんとコミュニケーションを取って、作風の変化を直に感じている金子さんが一番楽しそうです(笑)。『雨晴』のウェブサイトで『暮らしをつくる人』というコラムを連載されていますが、その意図はなんですか?
 
多くの方に作家さんや作品の魅力を知ってほしいという理由からです。作家さんの家に行くと、暮らしのヒントになることがとても多いんです。それを僕の中だけにとどめておくのは勿体無いなあと思うので、ホームページのコラムで書いています。
 
ものづくりの背景を詳しくお伝えするというよりは、作り手がどのような環境で暮らしていて、ご自身の作品をどのように使っているのかという視点でご紹介しています。こういったコミュニケーションを通じて、自然なかたちでお客様が工芸を暮らしの中に取り入れてくださったらうれしいですし、最終的には、『雨晴』に関わるすべての方々の暮らしが心からくつろげるものになることを願っています。
 
—個展のたびに、ワークショップなどのイベントを開催するのも同じ理由ですか?
 
ブランドコンセプトに「暮らしをつくる」と掲げていますが、これは、作家さんとお客様と『雨晴』の三者でつくっていくものだと考えています。そのために、三者がコミュニケーションを取る場のひとつがイベントです。
 
沖縄の作家さんに会いに行くと、お茶やコーヒーを出してもてなしてくれるのですが、それがとてもスマートで、緊張したり、恐縮することなく接することができます。そんな感覚のことを『雨晴』でも実現したいなと思って、眞喜屋さんの個展の会期中に『ゆんたく』と称して、眞喜屋さんとお客様が直接コミュニケーションをとれるイベントを開催しました。『ゆんたく』とは、沖縄の方言で井戸端会議のことを指します。
 
店頭で表現しきれない情報はWEBやSNSも活用して配信しています。例えば、眞喜屋さんの器に料理を盛り付けた画像を毎日、『雨晴』のインスタグラムで公開しました。沖縄の器は、強い絵付けのイメージがあって、使いづらいと思っている方もいるだろうなと。でも、眞喜屋さんの器は料理が本当に美味しく見えるし、どんな食材でも映える。僕たち自身も、やっぱり眞喜屋さんの器は美しく、使い易いと再認識できる機会になりました。
 

「能作」の風鈴。店内には「暮らしのなかに、工芸を通じて自然を取り込んで欲しい」という思いでセレクトされたしなものが並ぶ。
 
—2018年6月にはリビタとコラボレーションイベントを開催されました。リビタがリノベーションした一戸建てで線香花火のワークショップとクラフトビールを飲むという内容で、大盛況のイベントでした。
 
リビタは、古いものに新しい価値を加えるということをやっていますよね。僕たちは、基本的には新しいものを扱っていますが、先人が築き上げてきた日本人の感性を引き継いでいる作品を多く取り扱っています。リビタも僕たちも、着眼点としては「元からあったものを生かす」という共通点があって、親和性があると思っていました。僕自身も、ルーツがある住まいやものをどう生かすか考えることを面白いと感じるので、今回のコラボレーションイベントはとても楽しかったです。
 
古い建物をリノベーションして住みたいという人は、ご自身のスタイルを確立されている方が多いと思いますので、『雨晴』のコンセプトに興味を持って頂けたらうれしいですし、僕たちの扱っている工芸が、リビタが手掛けたリノベーション空間に溶け込んでくれたらうれしいです。


 作り手ごとに作品が展示されている店内。個展時はワークショップを催し、作り手とのコミュニケーションの場にもなる。