くらし談義

暮らしを美しくデザインする「いいもの」づくり<4/5>
竹俣勇壱さん 金工作家

加賀百万石の時代から培われたものづくり精神が息づく街・金沢を拠点に活動する竹俣勇壱さんは、オーダージュエリーとカトラリーなどの生活道具を手がける金工作家。「食べる姿を美しく見せる使いづらいスプーン」など、竹俣さんがつくる道具は独自の美学が詰め込まれています。伝統や手工芸といった枠にこだわらず、「自分がいいと思うものづくり」に真摯に取り組み続ける竹俣さんに、ひがし茶屋街にある築200年の町家を改装したお店「sayuu」でお話を聞きました。

 
暮らしをデザインする道具のブランド「tayo」

 
—「ryo」に続いて立ち上げた「tayo」は、どのようなブランドなのですか?
 
「さる山」の猿山修さんがデザイン、金沢で金属加工業を営む長井製作所が制作、そして僕が監修と仕上げを手がける、インテリア小物や文具、家具等の金物製品を展開するブランドです。
 
これまで、カトラリーやうつわなど食まわりのものをつくってきたんですが、生活の要素は食だけじゃないんですよね。壁の仕上げや床の仕上げは選択肢がたくさんありますが、スイッチプレートだとか、インタホーンカバーだとかは、ほしいと思えるものがなくて、自分たちでつくろうと思ったんです。それをきっかけに、空間インテリアのものもつくりたいと思うようになり、猿山さんと長井製作所と一緒に立ち上げました。
 
すでに完成している商品には、テープカッターやトイレットペーパーホルダー、スイッチプレートカバー、ステンレス製のシェルフなどがあって、ほかにもタオル掛けやシンクなど、生活の中にあるさまざまな道具を手がけていきたいと思っています。
 
—竹俣さんが監修するインテリアアイテム! 今後のバリエーションがとても楽しみです。
 
今、築100年越えの町家をリノベーションしていて、「tayo」のショップとして2018年秋のオープンを予定しています。食器棚の中には食器が入っていて、テーブルの上にはカトラリーが置かれていて、タオル掛けやシンクも付いていて、というふうに、実際にそこで生活をしている家のような設えにしたいと思っています。最終的には、家の中にあるもののほとんどがそこで買えるような場にしたいですね。
 
 
築200年の町家で営む「sayuu」は金沢の多様性を提示する場所

 
—インタビューを行わせていただいているここ「sayuu」も、町家をリノベーションしたお店ですね。
 
「sayuu」は文政8年に建てられた元茶屋で、築年数は200年くらい。もともとは僕が住む家を探していて、出会った物件でした。それまでは、飲食店街の中にあるビルに住んでいたんですが、古い家に住んでみたかったんです。いろいろな物件を見た中で一番古く、イメージしていたものに近かったのがここでした。郊外に行けばもっと大きな家が借りれますが、住むとなると直す必要があるし、広い分お金もかかります。ここは、入居するときにオーナーさんがきれいに手直ししてくれました。でも、北陸新幹線が開通することになり、たくさんの観光客が訪れるようになっていたので、お店として使うことにしたんです。

文政8年に建てられた元茶屋を改装した「sayuu」の店内。奥には炉をきった茶室があり、お客様との打ち合わせにも使用。

 
—今では町家を改装したお店がずらりと並ぶひがし茶屋街ですが、人が暮らしている町家もまだあるのですね。
 
ここを借りた2010年頃は、住んでいる人がもっとたくさんいました。お年寄りが多かったので、空き家ばっかりになったら嫌だね、なんて話を近所の人としていたくらいです。でも、北陸新幹線の開通後は町家を買う人や会社が増えて、街の様子はだいぶ変わりました。
 
—「sayuu」は、黒い天井とモルタルの床が古い素材を引き立てるモダンな空間ですね。
 
「KiKU」をオープンしたころはお金がなくてお店にはほとんど手をかけられなかったけど、「sayuu」は建物のベースもしっかりしていたので、なるべく漆喰や古材などを使ってリノベーションしました。
 
ひがし茶屋街に訪れる観光客の人は、もっと「金沢らしい」ものを求めるので、正直、ここでこういうものを売るのは大変なんです。金箔使ってないし(笑)。でも僕は、金沢という街にある多様性が好きなんです。金箔を使ってたら「金沢らしい」のかというと、そうではないじゃないですか。以前からある金沢独自の文化や地域性もあるわけです。今では石川県といえば伝統工芸、というイメージがあるけれど、石川県で生まれ育った僕が初めて自分で買った食器はバカラでしたしね。
 
みんながみんな、まわりが求める「金沢らしい」イメージに迎合するよりも、つくり手それぞれの創造性や、この街がこれまで育んできた独自性も生かされた街になっていってほしい。だから、「sayuu」はやりたいことをする場所にしようと思って、続けています。
 
—「自分がつくりたいものをつくる」という思いを貫いてらっしゃるんですね。
 
僕はただ、やりたいようにやっているだけです。安くつくるための形を選んだり、使いやすさばかりを優先しないようにしています。それは、自分が欲しいと思えるものをつくりたいから。いつでも、自分が好きなようにつくりたいんです。
 
そもそも僕が彫金の道に入ったのも、金属という素材と自分の考え方との相性がいいなと思ったからなんです。金属は丈夫だし、素材としても美しい。そんなふうに、やりたいことをやって生きていきたいから、それを成り立たせるために、つくり方や値段もデザインする。自分たちのものづくりに対しての価値をいかにつくるかということが、ものづくりには大事なことだと思っています。
 
「ものづくり」って、もっと好きなようにやっていいと思うんです。「売るためにつくる」よりも「自分たちがつくりたいものをつくる」、つまり自分たちがいいと思うものをつくるという姿勢の方が、やっぱり「いいもの」が生まれると思うんですよ。

金沢の独自性と多様性が好きだと話す竹俣さん。そんな竹俣さんが金沢から発信していく「ものづくり」の今後が楽しみです。



 
edit & interview_ 佐藤 可奈子 photograph_ 中村 絵
取材・撮影 :2017年 12月