くらし談義

暮らしを美しくデザインする「いいもの」づくり<3/5>
竹俣勇壱さん 金工作家

加賀百万石の時代から培われたものづくり精神が息づく街・金沢を拠点に活動する竹俣勇壱さんは、オーダージュエリーとカトラリーなどの生活道具を手がける金工作家。「食べる姿を美しく見せる使いづらいスプーン」など、竹俣さんがつくる道具は独自の美学が詰め込まれています。伝統や手工芸といった枠にこだわらず、「自分がいいと思うものづくり」に真摯に取り組み続ける竹俣さんに、ひがし茶屋街にある築200年の町家を改装したお店「sayuu」でお話を聞きました。

 
「ものづくり」への価値観を変えるものづくり

—技術や表現のこだわりを主張したいわけではないとは言え、竹俣さんの道具に施された手仕事には手間暇を感じます。
 
そうなんです、研磨も焼き入れも手仕事なので大変なんです(笑)。工房にはスタッフもいますが、一人でつくれる数は1日10本がいいところ。オーダーが増えてきてそろそろ生産が追いつかないかも、となったときに、燕三条で金属プレス業を営む田三金属の社長と出会ったんです。「こんなスプーン、どうやってつくっているの?」と言われて「手仕事で大変なんですよ」と話したら、「うちでもできるよ!」という話になって。
 
燕三条は金属加工業のまちとして知られていますが、日本のカトラリーはほとんどが燕三条でつくられています。日本に洋食が入ってきた明治の頃から国内でのカトラリー需要が増え、それまで和釘づくりが盛んだった燕三条がその生産地になりました。
 
工業的なものづくりに対して否定的な気持ちを持っている人って少なくないと思うんですけど、僕もそうした気持ちを抱いていたんですよね。でも、燕三条の工場に行ってみたら、全然オートマチックじゃないんです。機械はもちろん使うけれど、素材のセッティングだとか、型の微調整だとか、職人さんの手作業の連続なんです。そこで「ものづくり」をしていたのは、人の手だったんです。
 
—工業的なものづくりに対するイメージが変わるきっかけになったのですね。
 
がらりと変わりました。ぜひ一緒にものづくりがしたいと思ったんですが、それまで僕が手作業でつくっていたスプーンと同じものをつくるのはどうなのかな、と。いろいろ考えて、デザイナーの猿山修さんにデザインをお願いすることにしました。
 
猿山さんは、東京の元麻布で古陶磁やテーブルウェアを扱う「さる山」を主宰していて、空間やプロダクトの企画やデザインも手がけています。彼はいろんな工芸家の器のデザインもしていたので、相談してみたんです。
 
そうして、猿山さんと一緒に再び燕三条の田三金属を訪ねたら、工場から古いカトラリーの型が出てきたんです。燕三条でカトラリー生産が始まった当時の型で、まさに僕らがイメージしていた形でした。その型をもとに猿山さんがデザインし、田三金属がプレス加工して、僕が焼き入れをして仕上げをする。そうして生まれたのが、カトラリーシリーズ「ryo」です。

 明治期のカトラリーの型をもとに、「さる山」の猿山修さん、田三金属、竹俣さんの三者でつくったカトラリーシリーズ「Ryo」。

 
—「ryo」シリーズは、手仕事と機械仕事の融合から生まれたんですね。
 
ものづくりというものは、「手でつくったのか機械でつくったのか」という観点で価値が考えられがちですが、どちらが優れているとか、そういうことではないんです。手仕事には手仕事の、機械仕事には機械仕事の良さがある。お互いができることをやればいいと思うんです。
 
工業的なものづくりをしている人たちの中には、自分たちの仕事がどういう価値を持っているのか、自覚していない人も少なくありません。本当はすごく人の手間がかかっているものなのに、手仕事のようには評価されにくい状況があります。僕らと一緒につくったものがメディアに取り上げられたりすると、工場の人たちがすごく喜んでくれるんですよ。自分たちのものづくりの価値を知ることができたんですね。
 
—たしかに、高い技術や評価されるべき品質を持っているのに、一般の人には気づいてもらう機会の乏しいものづくりが、日本にはたくさんあるように思います。
 
今の日本では、本意ではないものづくりをしている工場がたくさんあると思います。つくらない人が決めた売価に合わせてつくらなければいけなかったり、ものづくりを維持するための補助金なのに、それをもらうためにやり方を変えねばならなかったり、たくさんのリスクを背負いながらものづくりをしている。僕は、そういうやり方ばかりがまかり通っていくと、いつか世の中から「いいもの」がなくなってしまうんじゃないかと危惧しているんです。
 
だから、今は工場でできる作業は、どんどん工場に依頼するようになりました。自分の手ではできなくても、機械でならつくれるものもある。「ryo」というシリーズには、つくり手の立場をフラットにしていきたいという思いを込めています。
 
—ものづくりを通じて、「ものづくり」というものへの価値観を変える試みをしているのですね。
 
伝統工芸も、保守的で閉ざされた世界というイメージがあったりしますよね。伝統工芸も手工芸も、機械を使ったものづくりも日本のものづくりをもっとオープンにしていって、ものづくりが適正に評価されるような世の中になったらと思っています。


18世紀のカトラリーをリデザインしたシリーズや、真鍮やステンレスで製作したピューター皿などの生活道具も展開しています。