くらし談義

暮らしを美しくデザインする「いいもの」づくり<2/5>
竹俣勇壱さん 金工作家

加賀百万石の時代から培われたものづくり精神が息づく街・金沢を拠点に活動する竹俣勇壱さんは、オーダージュエリーとカトラリーなどの生活道具を手がける金工作家。「食べる姿を美しく見せる使いづらいスプーン」など、竹俣さんがつくる道具は独自の美学が詰め込まれています。伝統や手工芸といった枠にこだわらず、「自分がいいと思うものづくり」に真摯に取り組み続ける竹俣さんに、ひがし茶屋街にある築200年の町家を改装したお店「sayuu」でお話を聞きました。


食べる姿を美しく見せる「使いづらい」スプーン

—『KiKU』をオープンした頃から、カトラリーなどの生活道具も作るようになったのですか?
 
きっかけは、塗師の赤木明登さんとの出会いでした。赤木さんは当時すでに有名な塗師で、面識はなかったけれど、お顔は知っていました。そんな赤木さんがある日、ふらりと『KiKU』にやってきたんです。
 
そのとき僕はジュエリーしかつくっていなかったんですが、カトラリーなどの雑貨を仕入れて店で売っていました。すると、カトラリーコーナーのサインとして僕がつくった小さなスプーンを見て赤木さんが、「今つくっている茶箱の茶匙に使いたいので、もう少し小さいものをつくれませんか」と。それで3本、違うタイプの茶匙をつくって持って行ったら、全部買い取ってくれたんです。
 
その後、その茶匙を入れた茶箱を東京のギャラリーで展示するからと誘われたので行ってみると、展示作品に自分の名前が添えられていたんです。それまで僕はお店としてジュエリーを売っていて、個人名を出したことはありませんでした。それが、有名作家に並んで名前があるものだから、展示を見に来たいろんなギャラリーの人や百貨店の人から「展覧会をやりませんか」というお誘いをいただくようになりました。でも、たまたま赤木さんに頼まれて茶匙をつくっただけで、展示するものがない、どうしよう、と(笑)。
 
—どうしたんですか(笑)。
 
同じく石川県で活動している作陶家の岡田直人さんが東京で展示をするから一緒にやらないかと声を掛けてくれて、やってみることにしました。当時は、個人作家のうつわが注目され始めた頃でした。でも、作家もののうつわに似合うカトラリーはなかなかないなと思っていたので、自分でつくることにしたんです。そうしてできたカトラリーと器を展示しました。初めての展覧会だったこともあって売り上げも良く、その後も展覧会をするきっかけになりました。
 
 
大ぶりなつぼや掬いと細い柄がアンバランスな「使いづらい」カトラリーシリーズは、竹俣さんの代表作。


—竹俣さんがつくるカトラリーの中でも、大ぶりなつぼと細い柄のアンバランスさが特徴的なスプーンは、形もですが、表情も独特です。
 
ステンレスの板から切り出した板を叩いて鍛えていくときに、この鎚目模様が生まれます。アンティークのような色合いにするために、焼きを入れて古色仕上げしています。本来、カトラリーにステンレスを使うのは腐食や変色がしにくいから。ステンレス製のカトラリーをわざわざ変色させるなんて、普通はしません。僕のやり方は、ちょっとひねくれているんです(笑)。形も、アンティークのカトラリーをイメージして、長い時間使ううちにすり減る部分を削っています。
 
—意外とずっしりしているうえに、柄が細くて長いので、持ったときの動作が慎重になります。

そう、使いにくいんです。軽くて食べやすいスプーンだと、食べ物をスプーンに山盛りにして口いっぱいにほおばる食べ方をしたくなりますよね。でも、それはあまり美しい食べ方ではありません。僕のスプーンは、大ぶりな皿が口に入りづらく、少しずつゆっくりしか食べられません。食事をするときの動作をもっと美しくしたいと考えてつくりました。
 
—作家がつくった美しいうつわを使って食事をする、その所作も美しくという、スプーンに込めた竹俣さんのお話からは、暮らしや道具への向き合い方を考えさせられます。
 
例えば、うつわについては見方や選び方はいろいろあるけれど、スプーンは選ぶのも使うのも、あまり意識的にされていないと思うんですよね。僕は、「ものづくり」で表現がしたいわけでも、こだわりの技法を見せたいわけでもないんです。そういうことよりも、人の無意識に響くものをデザインしたいと思っています。
 
僕はクラシックカーがすごく好きで、乗っていた時期もあるんですが、正直言ってメンテナンスの手間はかかるし、全然便利ではないんですね。それが、新しい車を買ってその便利さを知ってしまったら、戻れなくなってしまった。お風呂の追い焚きもそうです。なければないでいいんだけど、それを知ってしまうと手放せなくなる。でも、それでもやっぱり、クラシックカーに惹かれるんです。僕はクラシックカーのような、「不便でも使いたいと思える道具」に憧れていて、そういうものづくりがしたいんだと思います。
 
ひがし茶屋街にあるショップ「sayuu」の店内。竹俣さんの作品のほか、竹俣さんがセレクトした作家もののうつわも販売。