くらし談義

子どもと大人が共につくる、豊かなまちのかたち<4/5>
松本理寿輝さん ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役

活動内容を子どもたちが話し合って決める。地域の人の溜まり場になるカフェやコミュニティガーデンが併設している。子どもと保護者と地域をつなぐ『コミュニティコーディネーター』がいる。そんな、これまでにない形の保育園が注目を集めています。保育の場を家庭や保育園から「まち」へと広げるその試みは地域に交流を生み、保育園がまちづくりのひとつの拠点になりつつあります。保育園の運営を通じて豊かな社会づくりに取り組む『まちの保育園・まちのこども園』代表の松本理寿輝さんに、話を聞きました。

まちの保育園・まちのこども園』は、社会のあり方をつくる場になりたい

— 『まちの保育園・まちのこども園』には、保育士や調理師、事務員などのスタッフのほかに、「コミュニティコーディネーター」と呼ばれる職員がいらっしゃるそうですが、彼らはどのような役割を担っているのですか?

私たちの園では、保育園にまつわるすべての人たち…子ども・保育士・保護者・地域の人たちの間をブリッジして、コミュニケーションを支える立場の人を『コミュニティコーディネーター(以下、CC)』として各園に置いています。

保育士は保育のことについては学んできているけれど、会社で使う会話術とかは習っていません。でも、保護者はいわゆる会社員の方が多くて、社会人の感覚で保育士と接します。例えば、この保育士と保護者をブリッジする際にCCが力を発揮することもあり、一般社会的な感覚を持っている人が保育園にいることで、コミュニケーションが円滑に進むことも多くあるように思います。

また、『まちの保育園・まちのこども園』は、子ども同士はもちろん、保護者同士も園に「自分ごと」として参加してほしいし、僕たちと一緒にいることで豊かな日々を過ごしてほしいと思っています。CCが、保護者はどんなことで自己実現をしたいのか、どんなことに自己充実を覚えるのかを把握して、たとえば園が出会った地域の人と保護者をつないだり、保護者の活動のために場所を貸したりして、保護者も自己実現ができるような場所としての園づくりをしています。


小竹向原園にあるコミュニティスペース『まちのま』。地域と保育園で多様な用途に使われている。


—CC以外に、『まちの保育園・まちのこども園』では、各園にカフェやギャラリー、コミュニティスペースなどが併設されていることもユニークです。

まちの保育園 小竹向原園』には『まちのパーラー』というカフェが併設しており、保育園とまちとの居心地のいい距離感を持てるように、保育園の息づかいが感じられる敷地内に置きました。『まちのま』は保護者の方や地域の人が貸し切れるコミュニティスペースで、保育園と地域の中間領域として設けています。

こうした場をきっかけに、保護者と保育士、地域のつながりが生まれてきています。小竹向原園では、町会の加入率低下に悩む町会長さんから相談を受ける中で、町会の方々、近隣のボランティアの方々と一緒に、まちの広報誌『こたけぐらし』作りがスタートし、そこから派生して、広報誌を広めるためのイベント『こたけあそび』が生まれました。2015年12月に開催した第1回目の『こたけあそび』には、のべ400名が、第2回目にはその倍近い人が参加してくれました。ここから、イベントのプロセスを通じて出会った大人同士が連鎖的につながって、様々なイベントへ派生し、まちを動かしていくような感覚が得られました。

『まちの保育園 六本木』に併設したコーヒースタンド『まちの本とサンドイッチ』。地域と園をつなぐ役割を果たしている


—子ども同士だけでなく、保護者や地域がつながって、その輪が広がっていけば、『子育てのしやすいまち』の実現がしやすくなりそうですね。

はい。『まちが保育園』という状態になったら良いなと思っています。地域のみんなが顔馴染みで、挨拶を交わす関係で、子どもがどこに出かけても顔見知りがいるというまちは理想的だと思うんです。子どもという存在を介すと、ご近所さんと挨拶を交わしたりとか、地域の人やまちと関わる機会を増やしやすくなると思います。それは、『まちの保育園』や『まちのこども園』がないまちに住んでいる場合でもできることです。

—最近は、理念を共にする提携園(アライアンスパートナー)の取り組みもスタートされました。『まちが保育園』になる地域は今後もっと増えそうです。

この数年で、企業や自治体からお声がけをいただく機会が増えてきました。いろんな法人が多様な角度から『まちぐるみの保育』を行うことで新たな視点が生まれ、その学びが保育の質の向上につながると考えて、アライアンスパートナー制度を導入しました。

子どもを市民として認めていくと、子どもからのインスピレーションを受けて大人の日常も豊かになるし、そういう環境で育つ子どもが将来活躍する人材に育って、これからの時代をつくっていきます。子どもを育てることが、未来をつくることにつながると考えると、保育園や認定こども園は、子ども・会社・地域・社会の未来を描いていける稀少な事業だと思います。

これからの『まちの保育園・まちのこども園』は「社会づくりをする園」という立場になっていきたいと思っています。

「理想的な保育・教育環境をつくることは理想的な社会づくりと同じこと」と話す松本さん

 
interview_ 石川歩 photograph_ 古末拓也 一部写真提供_ ナチュラルスマイルジャパン
取材・撮影:2017年11月