くらし談義

子どもと大人が共につくる
豊かなまちのかたち<1/5>
松本理寿輝さん ナチュラルスマイルジャパン株式会社 代表取締役

活動内容を子どもたちが話し合って決める。地域の人の溜まり場になるカフェやコミュニティガーデンが併設している。子どもと保護者と地域をつなぐ『コミュニティコーディネーター』がいる。そんな、これまでにない形の保育園が注目を集めています。保育の場を家庭や保育園から「まち」へと広げるその試みは地域に交流を生み、保育園がまちづくりのひとつの拠点になりつつあります。保育園の運営を通じて豊かな社会づくりに取り組む『まちの保育園・まちのこども園』代表の松本理寿輝さんに、話を聞きました。

PROFILE

ナチュラルスマイルジャパン株式会社 代表取締役 松本理寿輝さん
1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒業後、株式会社博報堂に入社。3年勤めて退職した後、仲間と不動産ベンチャーを立ち上げる。その後、学生時代から構想していた理想の保育・教育を実現するためナチュラルスマイルジャパン株式会社を設立。2011年に『まちの保育園 小竹向原』を開園し、現在は六本木・吉祥寺・代々木上原・代々木公園で認可保育園と認定こども園を運営している。

その日にやることを、子ども自身で決めていく

—今日は、『まちのこども園 代々木上原』でインタビューをさせていただいています。

ここ『まちのこども園 代々木上原』は2017年4月に開園しました。2011年に最初の園『まちの保育園 小竹向原』を開園して、『まちの保育園 六本木』、『まちの保育園 吉祥寺』と、2017年10月に開園した『まちのこども園 代々木公園』とで、現在は5園を運営しています。

—ちょうど降園時間で、子どもが今日、園でやったことを親に話しながら帰っていく姿が見られました。

私たちの園では、毎朝、子どもたち同士で「今日は何をやりたいか」を話し合って決めます。こどもたち自身が主体的、意欲的に探究活動ができる環境を大切にしていきたいと思っています。

—保育士が時間割を組むのではなく、子どもたち自身でやることを決めるのですね! そうした保育・教育のスタイルに至った経緯を教えてください。

『まちの保育園』の開園準備中に子どもについて考えたときに、子どもを「できない存在」よりも「できる存在」と捉えたいと考えたんです。子どもは生まれて間もない時から、創造力とアイディアに溢れています。「もっと面白くやってみよう」という意欲を持っているし、自分なりの仮説と方法を持って行動して、自分の考えや想いを自分なりの手段で表現したり、伝えようとします。子どもは遊びの中で心が動いた時に最もよく学んでいます。遊びのプロセスに夢中になることは、子どもにとって意義深いことです。

では、子どもの心が動いて夢中になる場面をどうつくるか? そのひとつの方法として、子どもが主体的に何をしたいか自分たちで考え、決め、探究するための1日の流れをつくることにしました。『朝の会』で最近興味があること、発表したいことを各自が発表し、今日やりたいことを話し合います。全員が同じことをする『一斉保育』のスタイルではなく、個の尊重と、集団の学びの効果が叶えやすい小グループの活動を進めています。


『まちの保育園 小竹向原』の園庭。遊びを規定する遊具はなるべく置かず、子どもたちが自然の中から遊びを見つけ探究しやすい環境をつくっている。Satoshi ShigetaⓒNacasa&Partners Inc.



—『まちの保育園・まちのこども園』の教育方針には、松本さんの、子どもへの深い眼差しを感じます。保育士ではなく、保育園運営を目指したのは何故ですか?

僕が子どもの環境に興味を持ち始めたのは、大学時代でした。保育士を極めるという選択肢もあったのですが、保育園や幼稚園の先生・経営者の皆さんのお話をいろいろと伺い勉強している中で、これからの時代に、より社会的に保育を考えていくタイプの人間がいても良いのではないかと思ったんです。

自分がそうなれると思っていたわけではないけれど、その時僕は大学で経営を学んでいたし、カルチャー誌も作っていたので、経営や編集的な方面から業界に光を当てていけるのではないかと思いました。自分が保育の現場に立って、20年・30年と修行を積んで自分の理想の保育を形にすることも大事なことだと思うのですが、現場で活躍している保育者に、社会的な光が当たるように持っていけるといいなと思って、自分は何ができるかを考えた結果が、『保育園をつくること』でした。


大学在学中に子どもの環境に興味を持った松本さんは、たくさんの保育園関係者に実際に会い、国内外の事例などさまざまな調査をしていく中で、まちの保育園の構想を思いつく


『まちの保育園』の礎を築いた会社員時代

—大学卒業後は広告代理店の博報堂に入社されました。

当時から、教育の本質はコミュニケーションにあると考えていて、せっかく一般企業で働くのならコミュニケーションを通して人を学びたかった。コミュニケーションのプロフェッショナルを目指すのであれば、博報堂はぴったりだと思ったんです。

—博報堂で3年間働き、その後、ご友人と不動産系のベンチャー企業を立ち上げました。社会人生活で学んだことは何ですか?

博報堂では、「人の話をどう聞いていくか」を学べたことが大きいです。先入観を持たず「正しく聞く」ということはとても難しいので、そこで身に付けたことは今でも生きています。ただ、ずっと保育園経営をしたいという夢は持っていました。

その後、友人と起業した不動産ベンチャーで学んだのは、会社で一番大切なことは信用ということです。何度も、会社を潰しそうになったけれど、そのたびにいろんな人に助けられました。その助けがあったのは、人を裏切らず、人からの信用を大切にしていたからだと思っています。

会社として、持続可能性を高めるための利益追求は大切ですが、それよりも本質的な価値が追求されていなかったら、いずれ綻びが出て、株主やお客さんに迷惑をかけるかもしれない。「自分たちが生み出している価値は何か?」という原点に立ち返ってものごとを考えて、常に価値創造をし続けることが、会社の本質だと気が付きました。

—『まちの保育園』経営の礎は、この時期に築かれたのですね。

これは自分で気が付いたというより、不動産ベンチャーを共同で創業した3人と一緒に事業をやっていたから気付けたことです。

僕はずっと、「退路を断つ」という戦略でやってきたのですが、それくらいひとつのことを死に物狂いでやっていると、得るものも学びも大きいんです。今の会社ではスタッフも増えてきたので、「退路を断つ」なんて言ったら、「ちょっと待ってくれ」って言われてしまいますが(笑)。 


「まちのこども園 代々木上原で行った取材。多くの木材が使われた空間と子どもたちの『作品』が置かれた、温かな雰囲気