くらし談義

人と場に楽しさを届けるエンターテイナーなお弁当屋さん<3/5>
山本千織さん chioben(チオベン)料理人

色鮮やかな紫芋ボールはボリューム満点、意外な具材が驚きの春巻き、シャキシャキのキャロットラペや、出汁が美味しいホウレン草のお浸しは野菜をきちんと摂った満足感があって、タコ飯はコリコリ食感に山椒の実がアクセント。そんな、目にも舌にも美味しいお弁当『チオベン』を作っているのが、山本千織さん。ご近所コミュニティーの場だったという実家の料理体験や、多様な人々が行き交う飲食店での経験など、誰もが楽しくなるお弁当が生まれるまでのお話を聞きました。

食べる人と場への気遣いを盛り込んだ、色鮮やかなお弁当

—『チオベン』はその色彩の鮮やかさが特徴的で、「見たことのないお弁当」として評判です。お弁当づくりで影響を受けているものごとはありますか?

アートやデザインの本を見るのが好きです。ギャラリーにもよく行きますね。アートの「へんてこさ」というか、かっこよく言えばアートスピリッツのようなものは、お弁当づくりで見習っている部分があります。

常に新しいことをやるように心掛けるとか、型にはまっていない面白さを求めるとか、気持ち良さのなかにほんの少し引っ掛かりを感じさせるものづくりとか。アートという、ありきたりではないものを見ることからの影響はあります。あと、作品が出来上がるまでにかけてきたアーティストの膨大な時間を考えて、自分も頑張ろうと思ったりしますね。

—『チオベン』をみていると「型にはまらないお弁当づくり」を楽しんでいることが伝わってきます。意外な食材や調味料との組み合わせも『チオベン』の特徴ですが、味付け面で工夫していることはありますか?

『チオベン』のお弁当には決まったメニューがなくて、ボリュームに応じた価格だけが決まっています。メニューは基本的にお任せで作らせてもらっていますが、お客さんには「肉を入れてほしい」とか「魚がいい」とか、「こうしてほしい」となるべく具体的に言ってもらうようにしています。

例えば、『チオベン』のお弁当はヘルシーとよく言われるんですが、お客様のなかにはヘルシーを求めていない人もいます。ある現場に行ったとき、そこで働いている男性スタッフたちを見て、「彼らはこのお弁当であと半日も働くのか…!」と気がついて、その後は揚げ物もたっぷり入れるようにしたり。お客さんのオーダーになるべく応えることと、現場での気づきを取り入れることが、『チオベン』の原動力になっています。

ー『チオベン』は、撮影現場やミーティングなど、人が集まる場で食べられることが多いと思うのですが、「みんなで食べるお弁当」として意識していることはありますか?

具体的なオーダーをもらうようにしているとは言いましたが、基本的には「何が入っているかお楽しみ」というお弁当にしています。『チオベン』のお客様はロケ弁に慣れている人も多いので、飽きないように肉、魚の組み合わせを変えたものを数種類作ることもあります。それだと、それぞれが食べたいものを選ぶ楽しみがあるし、現場のみんなに会話も生まれると思うんです。


現在は、山本さんのほか、数名のスタッフと一緒に『チオベン』を作っている。


—食べる人のシチュエーションまで考えて作っているのですね。大家族のお母さんのような気遣いを感じます。
 
ただ、作る側が大変になるまでやるのはダメだと思っているので、今の体制でできる範囲の気遣いをする、と決めています。無理をすると作ることが楽しくなくなるし、スタッフが飽きてしまうとクオリティが下がります。

『チオベン』のお弁当のおかずは固形です。作るときは1個ずつ作るから大変なのですが、固形だと数字で管理できるから、余らせたり、足りなくなったりすることを防ぐことができます。無駄を省くことと、スタッフが安心して楽しく料理できる環境づくりも意識しています。

—毎日の料理を楽しくするコツや、お弁当づくりのアドバイスはありますか?

頑張りすぎると辛くなるので、一所懸命にやりすぎないということでしょうか。例え間違えても、「これはこれでいい感じかも」と思うくらいでいいと思います。私も、粉ふるいが面倒くさくなったら、粉をふるわずにボウルに入れてしまうときもありますし(笑)。料理が嫌いで合っていないと思う人も、何か面白いと感じる部分を見つけて、自分が楽しんでやることが大切だと思います。

お弁当づくりのコツについては、時間が経っても水気が出ないものを入れると良いです。ただ、水気が出ないように調理しようと思うと、調味料の量が増えたり味が濃くなりがちなので、『チオベン』では各材料の下味をしっかり付けてから調理するようにしています。

—「手作りのお弁当が茶色になりがち」という声をよく聞きますが、色鮮やかな『チオベン』のお弁当は、そんな方のお弁当作りの参考にもなりそうです。

私としては「茶色くなったお弁当も愛する」くらいの気持ちでお弁当作りをしていいと思いますが、あらかじめ色のあるおかずをいくつか用意しておくと便利です。『チオベン』では、紫芋で作ったボールやキャロットラペなどをよく使っています。ベースは茶色くても、色のあるものをひとつ入れるだけで見栄えが良くなります。彩り用にきれいな色の野菜を見つけるのも楽しいですよ。私は、スーパーマーケットをぐるぐる回って、色のきれいな珍しい野菜を見つけるのが好きです。


左・『チオベン』の味をつくり出す、山本さんこだわりの調味料。/右・材料によっては、農家から直接買い付けている。