豊かに暮らすひと

「ダブルローカル」が起こす楽しいハプニングのある暮らし<4/5>
後藤寿和さん・池田史子さん デザインユニット『gift_』

清澄白河の駅前に建つ昭和8年竣工の「清洲寮」。後藤寿和さんと池田史子さんのデザインユニット『gift_』(ギフト)は、2014年に清洲寮1階の元駐車場にギャラリー・カフェ・デザインショップ・オフィスの複合空間『gift_lab GARAGE』をオープンしました。新潟県十日町市松代にあるもうひとつの拠点『山ノ家』と東京の清澄白河を行き来する「ダブルローカルライフ」を実践しながら、「何かが起こる場」づくりに取り組み続けるおふたりに話を聞きました。

「ダブルローカル」で実現した、地域と刺激し合う暮らし

—完全移住ではなく、東京と十日町を行き来する二拠点生活を選んだ理由は何ですか?
 
後藤さん 運営者になる話が出てからも、東京を離れて完全移住する気持ちはありませんでした。『山ノ家』を始めてから、完全に移住しなくても自分の居場所はつくれるし、地域に関与できることがあると分かりました。どちらも「地元」でいいのではないかと。それは、自分たちが2つの居場所を持っていて、それぞれの場所に日常があるから発見できたことです。
 
池田さん 東京の清澄白河、そして新潟県十日町市の松代。都市圏とローカルにふたつの「地元」を持つという『ダブルローカル』な暮らし方は、過密と過疎を緩和する手段になるのではないかとも考えています。
 
物理的なコストがローカルの方が低い分、起業するのにも実は楽ですし、今後、ローカルでスタートアップする人がどんどん増えて行くのではないでしょうか。そうした際に、完全移住ではなく半移住でトライすることが、選択肢のひとつとしてスタンダードになっていくといいなと思います。

「山ノ家の1周年+行灯茶もっこ」の時の様子。このころは東京からの客が多いが、現在ではより自然に地元の人たちとの交流が生まれている。


—おふたりが、ふたつの地元を持つ「ダブルローカル」な暮らし方で得たことは何ですか?
 
池田さん 物理的に東京と十日町を行き来しているので、それぞれの場所について客観的な視点を持つことができる。そうした「複眼思考」になれることが最大の収穫でした。
 
—ギフトが、2015年に恵比寿から清澄白河に移転したのは、十日町市でのローカルな暮らし方を得た影響もあるのでしょうか?
 
後藤さん そうですね。『CET』で感じた街が変わっていく感覚が、十日町でもできたらいいなと思いながらローカルで活動していたので、移転するなら「東京のローカル」がいいと思っていました。
 
ある時、知人にガイドをしてもらいながら清澄白河を散歩していてた時に、偶然にここ清洲寮で100平米の元駐車場が空いていることを知って、中を見せてもらったんです。見た瞬間に、ふたりともここでギフトがやる意味があると思いました。

清澄白河駅からすぐの場所にある清洲寮は、築80年超の集合住宅。丁寧に手入れされ、今も多くの人が暮らしている。(※店舗や事務所以外は一般住宅なので部外者は立ち入りできません)


—ひと目惚れだったのですね。この場所の何が、ふたりの琴線に触れたのでしょうか?
 
後藤さん まず建物が昭和8年竣工という貴重な物件で、広くて天井も高いのに、恵比寿に比べたら家賃も安かった。あとは、自分たちが心地よく、楽しくいられる場所だと思って決めました。
 
池田さん 私は、駅から近くて立地がよいこと、あと、街の空気の独特の抜けた感じが気に入っています。いろんな可能性のある場所だと思いました。東京都現代美術館の最寄り駅でもあり、古くから海運の拠点地域だったことで倉庫跡地も多く、ユニークなアートギャラリーが点在していて、元々好きなエリアでもありました。
 
 
—清澄白河に移転して3年経ちますが、『gift_lab GARAGE』は街の中でどんな場になってきているのでしょう?
 
後藤さん 清澄白河に活動拠点を移してきた個性的な人たちと、地元で家業を継いだ若い人が交流して、新しい街のレイヤーが出来つつあるところに、僕らも入れてもらえたと感じています。
 
今年行われた地元のお祭りで、神輿が出る前の準備をする場所として『gift_lab GARAGE』が使っていただきました。祭りのときに地元の人たちに自分たちの居場所を解放するということがここでもできたのは、うれしかったですね。
 
僕らは空間のデザインをなりわいとしてきましたが、ただ単に「いれもの」をデザインするだけでなく、むしろその中で何ができて、どんなコミュニケーションが起きるのかという「場」のデザイン、「状況」のデザインにずっと興味を持ってきました。僕らにとって「東京ローカル」だった清澄白河に移転して、『gift_lab GARAGE』という地域に開かれた「いれもの」を持ったことで、「場をつくる」ということに対する思いが、より深化したように感じています。

GARAGEでのイベントの様子。清澄白河の新たなカルチャー発信スポットになっている。


—自分たちがやりたいことに積極的に実現しながら、大変そうに見えないおふたりの姿勢は、とても魅力的です。軽やかなフットワークでいるために気をつけていることはありますか?
 

池田さん ダブルローカルは、正直言って大変です。体力も必要。サスティナブルであるためには無理をしないこと、を学びました。『山ノ家』も『gift_lab GARAGE』も、常にオープンしなくてはいけないと思っていたけれど、それは無理だった(笑)。どちらも無理をせずにできる範囲でやるというスタンスに切り替えました。最初は勇気のいることでしたが、自分たちらしくあるためには必要なこと。あとは、何でも楽しむことでしょうか。
 
後藤さん 音楽でいう「セッション」の楽しさを大切にしています。その場に入ってくる人が交流して化学反応が起きて、つくられていくものごとを大切にしています。それを受け取った人が楽しんでくれるのがうれしいし、自分も楽しめます。
 
これからギフトとして何をするにしても、それをすることを目的にせず、「こういうのどう?楽しそうじゃない?」というスタンスでやっていくと思いますね。
interview_ 石川歩  photograph_ 古末拓也、一部写真提供_ ギフト
取材・撮影:2017年11月