豊かに暮らすひと

「ダブルローカル」が起こす楽しいハプニングのある暮らし<2/5>
後藤寿和さん・池田史子さん デザインユニット『gift_』

清澄白河の駅前に建つ昭和8年竣工の「清洲寮」。後藤寿和さんと池田史子さんのデザインユニット『gift_』(ギフト)は、2014年に清洲寮1階の元駐車場にギャラリー・カフェ・デザインショップ・オフィスの複合空間『gift_lab GARAGE』をオープンしました。新潟県十日町市松代にあるもうひとつの拠点『山ノ家』と東京の清澄白河を行き来する「ダブルローカルライフ」を実践しながら、「何かが起こる場」づくりに取り組み続けるおふたりに話を聞きました。

「何かが起きる」開かれた仕事場

—ギフトの最初の事務所はどんな場所だったのですか?
 
後藤さん 最初は自宅兼事務所でした。中目黒と恵比寿の間にあるマンションの一室で、人が呼べるように改修してオープニングパーティーもしました。でも、しばらくして「何かが違う」「何か足りない」と思うようになりました。
 
池田さん それまで働いていたイデーでは閉ざされた事務所スペースが存在していなくて、常にお客さんやスタッフが行き交う開かれた場所で仕事をしていたので、自宅兼事務所だと日常に「動き」がなくて、ある種の気詰まりを感じ始めたんですね。やはり私たちには「人が行き交う場」が必要だと話し合って、恵比寿でたまたま見つけた味のある古ビルの2階に事務所を移転しました。
 
後藤さん そこに自分たちのお気に入りのものを並べて、好きなクリエイションを伝えるギャラリーショップ兼事務所として使いました。不定期でしたが、いろいろイベントなどをやっていたので、かなりオープンな場になっていきました。

恵比寿のオフィスで行っていたイベントは、アート好きを中心に、次第にその存在が知られるようになっていった。


—事務所を「開かれた場」にするために、展示やイベントをしていたのですか?
 
池田さん 何かを発してそこに人が集まって、その出会いからさらに化学反応が起きていく。そうした場づくりは、私たちにとっては自然な流れでした。
 
後藤さん ただ、音楽やアートのイベントが定着すると、それだけを目的に訪れる人が8割を占める状態になっていきました。
 
—恵比寿の「知る人ぞ知る」スポットになっていったのでしょうか?
 
後藤さん そうですね。人はたくさん来てくれました。ただ、ビルの2階ということもあって隠れ家的な雰囲気がありましたし、イベントも実験的な内容のものが多かったので、アート好きな人が集まるマニアックな場だったと思います。僕も池田もそういう状況をとてもうれしく思っていましたが、一方、これだけでいいのかという閉塞感のようなものを感じていたのかもしれません。
 
—その閉塞感に気がつく、何かきっかけがあったのですか?
 

池田さん ギフトとして独立してから本格的に関わらせてもらった『CET』で、東京の東エリアの街がみるみる変わっていくのを目の当たりにしたのは大きかったと思います。
 
シャッター街にどんどんやりたいことのある人が集まって、年々街が活気づいていく過程を体感しました。街の変わり方がスクラップ&ビルドではなく別のレイヤーで新しく出来上がっていくのがとても面白かった。
 
後藤さん そんなふうに楽しく『CET』をやっていたのに、僕たちは『CET』エリアではなく、相変わらず東京の西側である恵比寿にいることに疑問を持ち始めていました。ちょうどその頃、「カフェを持ったらどうなるだろう?」という思いが湧いて、池田に提案してみたんですよね。

ギフトのクリエイティブディレクターで、カフェと宿屋『山ノ家』の主人でもある池田史子さん。後藤さんとは私生活でもパートナー。


池田さん そうですね。後藤はその頃からカフェ構想がありました。でも当初、私はあまり乗り気ではなかったんです(笑)。パーティのような不特定多数の人と浅く広くコミュニケーションする場も苦手で。
 
後藤さん 前から、僕たちが主催するイベントやパーティーがあると、池田は表に出るよりも、裏方で料理を作ったりいろいろもてなしの演出を練ったり。元々、そういうことが好きな人なんです。
 
—そのまま恵比寿の事務所でカフェをすることは考えなかったのですか?
 
後藤さん カフェ構想はこの頃からあったけれど、恵比寿の事務所はそれを実現できるほどの広さではなかったし、広い場所を持つにしても家賃がバカにならないですから。それに恵比寿では飲食店が多いから埋もれてしまうかなという思いもありました。
 
池田さん イデーの頃から、カフェは「日常の生活を構成するすべての美意識が出るもの」という意識がありました。そこで提供される食、カトラリーなどの雑貨やグラフィック、音楽、その場がつくる時間の流れやコミュニケーションデザインそのものに、やっている人の美意識が表れる。カフェそのものには肯定的だったんですが、この小さなスペースで実現させるということが想像できなかった感じですね。
 
後藤さん ただ、ランダムにいろんな人が出入りできて、不特定多数の人が行き交う場所をつくりたいという思いは持ち続けていました。