くらし談義

第2の人生を歩むために
つくり上げた自分の居場所<1/5>
近藤剛さん 「FINETIME COFFEE ROASTERS」オーナー

小田急線経堂駅から歩いて3分ほど、商店街の通りから横道に入った静かな場所に、近藤剛さんが経営する『FINETIME COFFEE ROASTERS』があります。築50年の一軒家を、1階が店舗、2階を住居にリノベーションし、2016年6月にお店をオープンしました。金融業界から一転、自らコーヒーショップを開業することを選んだ理由や職住近接の暮らし方を聞くうちに、どんなこともポジティブに捉えて、しなやかに人生を楽しんでいく近藤さんの姿勢が見えてきました。

PROFILE

FINETIME COFFEE ROASTERS』オーナー・バリスタ。2016年度日本エアロプレスチャンピオンシップ3位入賞、米国スペシャルティコーヒー協会Qグレーダー資格者。企業の財務部所属中にMBAを取得、その後外資系金融会社に転職。48歳で退職し、2016年『FINETIME COFFEE ROASTERS』をオープン。世界中から品質の良い豆を集め、浅煎り・エアロプレスで淹れるコーヒーは、遠方から訪れるファンも多い。

48歳で脱サラ。コーヒーと歩む第二の人生
 
—近藤さんは、もともとコーヒーが好きだったのですか?
 
「普通に好き」くらいだったんです。多くのコーヒーショップで出している深煎りコーヒーをよく飲んでいました。コーヒーの店をやろうと思って、コーヒーについて調べて飲んでいくうちに、浅煎りコーヒーの魅力にハマったんです。この店で出しているのは、浅煎りのコーヒーのみ。僕自身も、今は浅煎りしか飲みません。
 
—「深煎り」と「浅煎り」のコーヒーの違いは何でしょうか?
 
深煎りの豆が、焙煎した後に真っ黒で、油が浮いて黒光りしているのは豆が焦げているからです。焦げているから苦味がある。浅煎りは豆を焦がさず、豆本来の味を出す焙煎方法です。コーヒー豆は果物の種で、フルーツなんです。そのフルーツの種を煎ることで、果物のような甘さのあるフルーティーな酸味が出てくるし、シトラス、ストロベリー、ピーチ、アプリコット、カシスの様な様々な味がします。

せっかくなので、皆さんに僕が淹れた浅煎りコーヒーを飲んでいただきましょう。
 
(実際に淹れていただいたコーヒーを飲んで…)
 
—いつも私たちが飲んでいるコーヒーよりも、とっつきやすい酸味で飲みやすいです!後味で甘みが出てくるすっきりしたコーヒーですね。
 
浅煎りコーヒーの美味しさは、実際に飲んでもらわないとわかってもらいにくいんです。みなさんが日頃よく飲んでいる深煎りと、浅煎りのコーヒーは全く違うもの。別の飲み物と思ったほうがいいかもしれないくらいですね。


豆本来の個性を引き出す焙煎方法とエアロプレスで抽出する『FINETIME COFFEE ROASTERS』の浅煎りコーヒー

—かつては外資系の金融会社で働いていたという近藤さんが、コーヒーショップを始めたのはなぜですか?
 
会社員時代からずっと、自分で商売をしたいという思いを持っていたんです。社会人になって最初に入った会社でMBA(Master of Business Administration の略称。日本語では経営学修士と呼ばれる学位で、経営学の大学院修士課程を修了すると与えられる)を取っていたので、経営の数字は見れるし理解もできるけれど、企業の一員でいる限りMBAが活きていないと感じていたんです。自分ですべてをイチから経験するのはどんな感じだろうと思っていて、48歳のときにやってみようと退職しました。
 
元金融屋のクセで、気になったことは徹底的に調べるんですが、仕事を辞めて次に何をしようか考えたときに、コーヒーもいいなと思って徹底して調べました。今の流行りとか、世界的にコーヒー市場はどんな傾向にあるのか調べていくと、どうやら、サンフランシスコや北欧を中心に浅煎りコーヒーの波が来ている。そこから、日本で浅煎りコーヒーを出しているお店に行きまくりました。
 
まずは富ヶ谷の『Fuglen Tokyo』(※)に行き始めて、数種類のコーヒー銘柄のテイスティングができるカッピングイベントに毎週のように参加して、どんどん浅煎りが好きになっていったんです。その頃から、日本でも浅煎りコーヒーを出す店が少しずつ出てきました。


コーヒーを淹れる様子が見えるオープンなつくりの店内。奥のテラス席まで視線が抜ける、まるで路地のような空間

—浅煎りコーヒーとの出会いは、自らコーヒーショップをオープンしようと思うほどの出来事だったのですね。
 
僕はもともと音楽や映画、アートなど、カルチャー全般が好きなサブカル野郎でして、金融マン時代も休みがあれば海外に行きまくって、ふらふら遊んでいたんです(笑)。遊びを通じて多くのことをインプットしていくなか、ふと「この後は何のために生きていくのか」とか考え始めるわけです。人の役に立たないと人間は生きていく価値がないのではないか、とかね。
 
浅煎りコーヒーに出会ってコーヒーショップをオープンするのはどうだろうと考えたとき、「僕が浅煎りコーヒーを飲んで感動したように、他の人にも感動してほしい」「このコーヒーの良さを広めたい」と思い始めました。それが、これからの自分のやりがいにつながると感じたんです。
 
ただの「コーヒー屋のオヤジ」になるのではなく、「自分が充足しつつ人を満足させられる仕事をすることに生きる意味がある」と、そう思うようになっていきました。

※ 『Fuglen Tokyo』:ノルウェーのオスロにある老舗カフェが日本に出店したコーヒーショップ。東京都渋谷区富ヶ谷にあり、日本におけるサードウェーブコーヒーの先駆的存在。国内外から多くの人が集まるコミュニティーの場にもなっている。

近藤さんのこだわりが詰まったコーヒー豆は、すべて自家焙煎で常時4〜5種類が並んでいる。オンラインショップでも購入可能